転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「できるだけ、早く返していただけませんか? あれは、母の形見なのです」



 私はモンタギュー侯爵にすがったが、彼の返事は素っ気なかった。



「それは、捜査状況次第です。では、本日はこれで。ご協力ありがとうございました」



 侯爵と騎士たちが、退室される。お見送りするつもりだろう、モーリスも出て行った。アルベール様は、ドニ殿下をチラと見やると、私に告げた。



「疑われてお辛いでしょうが、元気を出してくださいね。お側にいて差し上げたいところですが……。あいにく、これから男爵と夫人の葬儀に参列しなければいけませんので」

「あら、そうなんですの?」



 私は、目を見張った。ミレー家とお二人は、それほど親しいわけでも無いのに。



「父の代理なのですよ。では、これで。殿下、失礼いたします」

 

 アルベール様は、いともあっさりと出て行かれてしまった。二人きりになると、ドニ殿下は気遣わしげに私をご覧になった。



「大丈夫ですか」

「ええ……。あ、お茶でも召し上がりますか? 今、持って来させましょう」



 私はメイドを呼ぼうとしたが、殿下は押し止められた。



「お気遣い無く。……ところで」



 ドニ殿下は、アルベール様が出て行かれた扉を、不快そうに見つめた。



「モニク嬢がお付き合いしている男性を、悪く言いたくはないのですが。アルベール殿は、何を考えておられるのだろう。あなたが大変なこんな時に、男爵たちの葬儀を優先するだなんて。大して親しかったわけでも、ないでしょうに」

「ミレー家のご事情があるのでしょう」



 そうは言ってみたものの、私も、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。もう少し居てくれても、と思ったのだ。所詮は、偽りの恋人ということか。



「それにしたところで……。少々、配慮に欠けますよ。ブローチの件にしたところで、そうだ。あんな風にあけすけに語るなど……」

 

 アルベール様の言葉を思い出した私は、思わず赤くなった。殿下は、そんな私をじっとご覧になった。



「モニク嬢。これは、お伝えするべきか迷ったのですが。あのパーティーの夜のことです」

「――何ですの?」



 私は、身構えた。



「確かにあの夜、あなたとアルベール殿は姿を消しておられた。そして、殺されたバール男爵とシモーヌ夫人は、それより前から姿が見えませんでした。さらに、僕の記憶が正しければですが……。アルベール殿は、あなたがいなくなられるよりずっと前から、パーティー会場にはいらっしゃらなかったのですが。単にあなたと密会されるだけにしては、時間差が大きすぎるように感じたのです。……一体、この誤差は何でしょうね?」
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