転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
第五章 不信と恋慕の狭間で

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 その夜、私は自室で一人、机に向かって考え込んでいた。



 目の前には、お父様から回収した短剣がある。モーリスや他の侍女たちから話を聞いたところ、これとブローチは、いずれもアンバーの仕業と思われた。



 昨日の朝、アルベール様がいらしたことで私が部屋を出た後、モーリスもすぐに退室したそうだ。その後、他の侍女が、私の部屋の前でうろうろしているアンバーを目撃した。不審に思って問い詰めたところ、アンバーは、『最後にモニク様のために何かして差し上げたい』と言い出したのだという。



『そうだわ。バール男爵のお葬式に備えて、準備をいたしましょう……』



 アンバーがそう主張するので、その侍女は彼女と一緒に、私の部屋へ入った。そして二人は、お葬式用の服が入ったワードローブを開けた。そうしたら、この短剣が出て来たのだという……。



 おそらくは、私とモーリスが退室してからその侍女に目撃されるまでの間に、アンバーは短剣をワードローブに仕込み、なおかつブローチを盗ったのだろう。他の侍女が来るまでうろついていたのは、目撃者をこしらえるために違いない。私は、そう推測していた。



 短剣を発見したアンバーは、大げさに驚愕し、すぐにお父様の元へすっ飛んで行ったそうだ。きっと、お父様がパニックになっている隙に、ブローチを事件現場へ落としたのだろう。そして素早く屋敷を抜け出た……。



(アンバーが、そんな人間だったなんて)



 私は、頭を抱えた。それだけではない。他の侍女たちは、彼女について、こんな証言をしたのだ。



『アンバーって、裏表の激しい子でしたわよ。旦那様やお嬢様の前では猫をかぶっていたけれど、陰ではご一家の悪口ばかり』

『私たちには、態度が悪かったですわ』

『最近は、とみに居丈高になって。私はもうすぐあなたたちの手の届かない所へ行くわよ、なんて私どもに言ってましたもの』



 『手の届かない所』というのは、真犯人に協力してその謝礼をもらうという意味だろうか、と私は想像した。それで金持ちになる、という意味かもしれない。いずれにしても、アンバーの本質を見抜けなかった自分に、私は腹が立って仕方なかった。



(幼い頃から、ずっと一緒だったというのに。私って、人を見る目が無いのかしら……?)



 唯一の救いは、他の侍女たちが私を信じてくれたことだった。彼女たちは、口をそろえてこう言った。



『アンバーとモニクお嬢様でしたら、絶対にお嬢様を信じますわ。アンバーが、お嬢様に濡れ衣を着せようと企んだに違いありません……』



 その時、コンコンと部屋の窓をノックする音が聞こえた。何事かと見に行って、私は驚いた。窓の下には、何とアルベール様がいらっしゃったのだ。



(一体、どうやって門番の監視をくぐり抜けたというの……?)
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