転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「報告したいことがあるのですが。入れていただけませんか?」



 声を潜めて、アルベール様が仰る。少し逡巡したが、私は彼を窓から部屋へ入れた。こんな夜遅くに、誰も私の部屋へは来ないだろう。それに、話の内容も気になった。



「よく、入って来られましたわね」

「うん。あの門番は、問題ですね。金を握らせたら、あっさり通してくれて。どうやら、慣れているようですよ。聞きもしないのに、ローズ嬢の部屋を指南してくれました」



 私は、頭を抱えた。ローズが、夜に男性をこっそり部屋へ引き入れていることは、薄々気付いていたが。まさか、そんな真似をしていたとは。門番が、慣れっこになるほどに。



「ま、今回は好都合でしたけど……」



 言いながらアルベール様は、私の机に置かれた短剣に目を留められた。



「……それが、問題の?」

「ええ」



 私は、侍女たちから聞いた話と、自分の推理をアルベール様に告げた。彼は、真剣に耳を傾けてくれた。



「短剣を仕込んだのは、アンバーでしょうね。ただ、彼女が真犯人で、これでシモーヌ夫人を刺殺したとすれば、彼女はその後、短剣を始末し、返り血を浴びた服を着替え、何食わぬ顔でパーティー会場へ戻り、そして他の侍女たちと共に、あなたを捜しに行ったわけだ。ずいぶん慌ただしいですね」

「じゃあやはり、彼女は犯人の協力者なのかしら? あの意味深発言からしても……」

「可能性は高いですね……。ところで」



 アルベール様は、私をチラとご覧になった。



「今の話で、一つ引っかかったことがあるのですが」

「何ですの?」

「ブローチの件です。あなたと執事さんが退室した後に、アンバーが部屋へ忍び込んで盗んだ、というのは間違い無いでしょう。ですが、サリアン伯爵の元へ短剣を持参してから、屋敷を抜け出るまでの間に現場にブローチを落とした、というのはやや違和感があります」

「そうでしょうか?」



 ええ、とアルベール様は頷いた。



「アンバーの立場からすれば、一刻も早く屋敷を出たいはず。いくら短剣発見で大騒ぎになっているとはいえ、そんな時にブローチの仕込みをやるなんて、リスキーな話だと思いませんか。それなら、手袋とショールみたいに事前に盗み、犯行時点で落としておけばいいのでは? そこだけ、疑問が残りますね」



 確かに、と私は考え込んだ。それに、私を犯人に仕立て上げるためなら、手袋とショールと、短剣の仕込みだけでも十分だろう。リスクを冒してまで第三の証拠を作り上げる必要は、あったのだろうか……。



 あれこれ考えていると、アルベール様は思いがけないことを言い出された。



「俺は、今日の男爵の葬儀で、耳寄りな情報を得たのですよ」
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