転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「よし。じゃ、始めましょうか」



 アルベール様が、大きく頷く。私はきょとんとした。



「始めるって、何をですの?」

「隠蔽工作」



 アルベール様は、あっさり仰った。



「犯人は、金目の物に一切手を着けていない。動機は金銭ではなく、怨みでしょう。皆、同じことを考えるはずです。となるとやはり、最も疑われるのはあなただ。それを防ぐために、物盗りの犯行に見せかけるのです」



 アルベール様は、がらりと窓を開けた。



「今夜のような、パーティーのタイミングを狙う盗人も多いですからね……。皆、浮かれて注意散漫になっているし、屋敷内だって人が少なくなる」



 そう付け加えた後、彼は私をじろりと見た。



「さ、早く室内を荒らしますよ。主役二人が、姿を消しているんです。皆が捜し始めるのは、時間の問題だ」



 確かに、肝心の私とバール男爵がいない、となれば皆不審に思うだろう。アルベール様は、早くもチェストの引き出しや、ワードローブの扉を開けている。慌てて真似をしながらも、私はふと疑問を覚えた。



(でもアルベール様は、どうしてここまで? いくら、バール男爵がお嫌いだから、といって……)



 二人が嫌われ者であることは、確かだ。バール男爵は、元々香水商人だった。ここモルフォア王国は小国だが、温暖な気候ゆえ、数々の珍しい植物が生育するのが特色である。男爵は、それらを用いた香水を金持ちの貴族らに売り込み、財を成したのだ。そしてついには爵位も金で手に入れ、困窮した伯爵家の娘を妻に迎えるところまで漕ぎ着けた。とはいえ、あこぎな商売の裏では、泣かされた人間も無数にいると聞く。



 そしてシモーヌ夫人もまた、社交界では鼻つまみ者だった。夫人はさる伯爵の妻だったのだが、彼女の浮気と浪費癖のせいで、夫はずいぶん苦しんだらしい。あげく夫は、若くして亡くなった。建前は病死だが、自殺だったのではという噂も流れたものだ。そして夫人は、多額の遺産を受け継いだのだった……。



「手が止まってますよ」



 アルベール様ににらまれ、私はハッとした。そうだ、余計なことを考えている暇は無いのだわ……。
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