転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「えええ、ええと……」



 ローズの所業がバラされたせいだろう、お父様は金魚のように口をパクパクさせた。あくまでもローズ優先なのだな、と私はうんざりした。私だって、ことさらに彼女に恥をかかせたいわけではないが、今は自分の潔白を証明することが優先だったのだ。



「で、で、殿下! このことは、マルク殿下にはどうぞ内密に……」



 お父様は、どもりながらドニ殿下にすがった。バルバラ様は、本気でローズを王太子妃にするおつもりのようなのだ。そんなわけでローズは早くも、マルク殿下に露骨に接近しているそうである。



「よそのご令嬢のプライバシーを噂する趣味はございませんから、どうぞご安心を」



 ドニ殿下は、面倒くさそうに仰った。さして関心無さげなご様子だ。



「それから、兄とローズ嬢のことは二人の問題ですから、口を挟むつもりもありません。……それよりも私の頭の中は、モニク嬢のことでいっぱいです」



 お父様やモンタギュー侯爵の前だというのに、殿下はもはや気にしておられないようだった。



「愛するモニク嬢への疑いが晴れて、どんなに喜ばしいことか……。それにしても、彼女に罪を着せようとした人間は、許せませんね。中庭をうろついていたという人影も、きっと真犯人だったのでしょう。わざと、門番に姿を見せつけたのかもしれない」



(――え!?)



 ドキリとした。パーティーの夜に、中庭に女性がいたという話を、殿下はなぜご存じなのだろう。チラとお父様を見やれば、彼も呆然としていた。



(いえ、お父様が喋ったはずは無いわね)



 ローズの縁談に悪い影響が及ぶのではと、あれほど気にされていたお父様だ。これ以上、私に疑いがかかるような事態は避けるはずである。当然、バルバラ様やローズが喋るはずも無い。



「人影とは、何のお話です?」



 モンタギュー侯爵が、一転して険しい眼差しになる。ドニ殿下は、おやという顔をなさった。



「モンタギュー殿は、お聞きではありませんか? パーティーの夜に、中庭で人影が見えた、という話ですよ。門番が、目撃したのだとか。きっと、トピアリーの下に手袋とショールを埋め、モニク嬢の仕業に見せかけようとしたのですね」
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