転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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(黒髪の長身の男……!?)



 一瞬ドキリとした私だが、すぐに思い直した。そんな男性は、山ほどいる。アルベール様のはずが無い。第一彼は、あの夜私の部屋にいらしていたではないか。



「……ええと。ガストンは最初、中庭では女性を見たと言っていたのですわよね? 今度は、男性だと言い出したんですの?」



 気を取り直して、私はお父様にお尋ねした。

 

「ああ。侯爵が帰られた後、聞いてみたが、見間違えたと恐縮していた」

「男性と女性を見間違えることなんて、あるんですの!?」



 私はいきり立ったが、お父様はけろりとされていた。



「お前が疑われていないんだから、いいじゃないか。アンバー殺しの夜に、アルベール様が来ていないとガストンが言い出した時は、焦ったさ。でも、中庭の人物も、森の人物も男ということで、モンタギュー侯爵も犯人は男と決め込んでおられる。よかったな、モニク」

「ですが、ガストンは明らかに嘘をついているではないですか。それを放置なさるんですの?」

「こだわらなくてもいいだろう」



 お父様が、面倒くさそうなお顔をなさる。



「お前が男性を部屋に入れていないとガストンが言ってくれて、かえって助かったさ。ローズの件も、併せて隠し通せるかもしれない」

「お父様ったら……。ローズさえよければ、それでいいんですの!?」



 事件は解決どころか、ますます錯綜してきたというのに。怒りに震えながら、私は立ち上がり、部屋を出た。真っ直ぐに、図書室へと向かう。昨日は、ドニ殿下の来訪のせいでしそびれたが、記憶喪失について調べねばならない。



(どうにかして、思い出せないかしら……)



 記憶さえ戻れば、何もかも解決するだろうに。私は、それらしき専門書を片っ端から選び出した。それらを抱えて図書室を出、急ぎ足で自室へと向かう。



(パーティーの出席者のチェックも、中途になっているし……)



 あれこれ考えながら、廊下を曲がったその時だった。私は、誰かにバンとぶつかった。弾みで、抱えていた本がバラバラと落ちる。



「……ごめんなさい!」



 反射的に謝りながら顔を上げて、私はドキリとした。目の前にいたのは、モーリスだったのだ。彼の視線は、私が落とした本に注がれていた。



「お嬢様、それは……」

「何でも無いのよ。少し、興味があっただけ……」



 必死に誤魔化しながら、私は本を拾い集めようとした。だがモーリスは、そんな私を押し止めた。



「モニクお嬢様。もしやお嬢様は、婚約披露パーティーの記憶を、失っておられるのではございませんか」
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