S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 庭の真ん中で存在を主張する大きな松の木。

(いつ見ても立派だなぁ。樹齢はどのくらいなんだろう)

 和葉は松を見あげながら、ふと思う。

(そういえば、かすかに残るお母さんの記憶も……背景は松の木だったな)

 母親である和香子との思い出は断片的なものばかりだが、ここと同じような日本庭園を一緒に歩いたことは、ほんのりと覚えている。和香子の顔にはモヤがかかったようになっているし、優しい声でなんと言っていたのかはちっとも思い出せないけれど――。

(あのお庭はどこなんだろう。もしかして、ここだったなんてことは……)

 柾樹は過去に和葉と会ったことがあると言っていた。その場所がここ、という可能性はないだろうか。真剣に考えかけたところで、和葉はハッとする。

(過去は重要じゃないと柾樹さんは言ってくれた。焦って思い出す必要はないよね)

 今は過去よりも未来を見つめよう。和葉はそう思って、松の木から視線をそらした。
 
 有名な大聖堂や外資系ホテルのブライダル用パンフレット、たくさんのウェディングドレスが掲載された冊子。それらをテーブルの上に並べて、寧々と唄菜とおしゃべりをする時間は最高に楽しかった。

「写真映えは、この大聖堂が一番かしらね?」
「和葉ちゃんには、王道のAラインかプリンセスラインが似合いそう!」
< 153 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop