S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「それにな、記憶は一時的に〝なくしてしまった〟かもしれないが、和葉の大事な思い出はなくなっていないぞ。和葉の心にも身体にもちゃんと刻まれて、和葉を支えている」

 彼の言葉が、胸の奥深くに染み入っていく。

(なくしてしまったのは記憶だけ……思い出はちゃんと……)

 ふいに目頭が熱くなって、和葉は慌てて手の甲で拭う。

『いつかきっと思い出せるよ』
『過去より、未来を大事にすればいい』

 そんなふうに言って励ましてくれた人はたくさんいた。だけど――。

〝なくしたわけじゃない。ちゃんと残っている〟

 そんな言葉をくれたのは柾樹が初めてだった。和葉はずっと、誰かにそんなふうに言ってほしかったのかもしれない。

 おなかがはち切れそうなほどのスイーツを食べ終え、ホテルを出た。

「このあとはどうする? 映画はどうだ?」
「いいですね。ちょうど観たいなと思っていたものが」

 だが、その瞬間に柾樹の上半身がぐらりと傾いた。

「だ、大丈夫ですか?」

 和葉は慌てて彼の肩を支え、顔をのぞき込む。

「悪い、ただの片頭痛だ。寝不足だとたまに出るんだ」
「えぇ……でもなんだか身体が熱い気がしますよ。今日はもうマンションに帰りましょう」
「このくらい平気だ。映画を――」

 柾樹の声をさえぎって、和葉は大きな声を出す。

「絶対にダメです。すぐに帰って休んでください」
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