春色ドロップス
 いつものように朝食を済ませると父さんが釣り堀に行こうと言い出した。 そこで妹ははしゃいでいる様子。
「健太はどうする?」 「彩葉ちゃんに会ってくるよ。」
「そうかそうか。 じゃあお土産も釣ってこなきゃなあ。」 「お土産?」
「そうだよ。 彩葉ちゃんも魚は好きだったろう?」 「た、し、か、、、、ねえ。」
「じゃあ行ってくるよ。」 父さんは鼻歌を歌いながら車に乗って行きました。
 「彩葉ちゃんによろしくね。」 母さんは洗濯をしながら出掛けるぼくを見ています。
「夕方には帰るから。」 「あいよ。」
 そうやって外へ出ます。 今日は天気がいいなあ。
ちょいと遠回りをしてスーパーの脇を貫けますと見たことの有る人が歩いてきます。 (誰だろう?)
 スマホで話しながら歩いてくるその人は不意にぼくを見付けたらしい。 「あれ? 灰原君?」
「誰かと思ったら折原さんだったの?」 「この辺に馴染みの友達が居るから遊びに来たんだ。 灰原君は?」
「ぼくもこの辺に馴染みの友達が居るから遊びに来たんだよ。」 「そっか。 お互いに友達の家に行くのね?」
 「そうだね。 一緒に勉強する約束もしてるんだ。」 「へえ、仲良しなんだね? じゃあ行くね。」
学校では見掛けないツインテールの頭にリボンを結んでいる折原さん、、、。 どっか可愛いなあ。
 彼女の後姿を見送りながらコンビニで買ったアイスを食べる。 「彩葉にも買っておいたからこれはこれだね。」
土曜日だというのに車が途切れることは無い。 みんな忙しそうに過ぎていく。
 時々は猛スピードで駆け抜けていくやつも居る。 ヒバリが高く飛んでいくのが見える。
やがていつものように雑貨屋の裏に回ってチャイムを押す。 「はーい。」
 時間を伝えておいたから彩葉が飛び出してきた。 「元気だねえ。」
「だって健太君が来るんだもん。」 「お母さんは?」
「今日はお店に係っきりなんだって。」 「そっか。」
 いつものように二階へ上がる。 窓も開け放して合って気持ちがいいな。
「健太君のクラスって何人くらい居るの?」 「30人くらいかな。」
「そっか。 賑やかでいいね。」 「ってかうるさくて困るよ。」
「あの人たちでしょう? あれはしょうがないと思うなあ。」 「そうかなあ?」
 馬宮たちの大騒ぎは今始まったことじゃない。 ずっと前からそうだった。
何度となく静かにするように話してきたけど無駄だった。 彩葉は諦めていたらしいけど。
 ぼくは机の上に置いてあるノートを見付けた。 「これは何?」
「ああ、それは見ちゃダメ。」 「そんなに大事な物なの?」
「そうなの。 これから少しずつ書き溜めようと思ってるから見ないでね。」 「そっか。」
 ぼくは彩葉の顔を見ると気が折れた。 いったい何を書くんだろう?
実は卒業式までのひ、み、つ、、、、なんです。

 時々、国語の教科書を開きながらああだこうだと話し合い、お菓子を食べながらつかさたちの話題で盛り上がる。 何も無いけどそれでいて何か幸せな気分。
箪笥の上には卒業アルバムがそっと置いてあってあの頃に使っていたペンケースが置いてある。
 馬宮たちには最後の最後までやられっぱなしだったなあ。 「何で一緒の高校に来ないの?」とか言われてたっけ。
「あんた最低だよね。 彩葉のこと少しは分かってるの?」 「分かってませーーん。」
「じゃあ偉そうなことを言うなよ。 ヒラメ君。」 「何だよ 腹だけでかい狸野郎。」
 「あのさあ、訳分んない喧嘩しないの。」 「訳分んねえからするんだよ。」
「勉、何とか言ってやって。」 「馬鹿は死んでも分かんねえよ。」
 (俺、馬鹿じゃないもん。 偉いんだもん。」 「へえ、そうなんだ。 じゃあさあxの二乗にyの三乗を掛けたら何になる?」
「えっとえっとえっと、、、。」 「今のうちに帰ろうぜ。 みんな。」
 勉が混乱している馬宮たちをほったらかして歩き始める。 つかさは笑いをこらえながら彩葉を見ている。
卒業式まであんなんじゃあ先が思いやられるわ。 ぼくはまた卒業アルバムを開いてみた。
 一緒に転勤になった片山先生の写真も載っていた。 (懐かしいなあ。)
「え? まだ一か月も経ってないんだけど、、、。) 「でもさあ話題にすら出てこないんだよ。」
「それも寂しいな。 私もそうなるのかなあ?」 「彩葉にはぼくが居るよ。 それに山本さんたちだって会えば聞いてくるんだよ。」
「そうなの? そうか。」 4月もまだまだ始まったばかり。
 高校生活もこれからなんです。 何が待っているのかな?
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