春色ドロップス

2.

 父さんはというと釣り堀に来て竿の準備をしています。 郁子も楽しみにしている様子。
「健太にお土産を釣らないとなあ。」 「何を釣るの?」
「分かんない。 釣れた魚をお土産にするさ。」 「いっぱい居るねえ。」
 この釣り堀は実はぼくも来たことが有ります。 川魚と海魚が泳いでるけっこう大きな釣り堀です。
もちろん別々にだよ。 海魚のほうは真鯛とか石鯛、カサゴに河豚も居ますねえ。
川魚のほうは鯉とか鮎とか鱒とか、、、。
 兎にも角にも父さんたちは友達も手伝って釣りの準備をしました。 「さあ、釣るぞーー!」
アサリを餌にする人、エビで釣る人、ルアーふぇっ寝具を試す人、、、。 いろんな人が居ます。
あれあれ? ここに変な人が、、、。
 「お前、それは何だよ?」 「タイトルマッチ。」
「は?」 「鯛を取るマッチだよ。」
 古くからの友達 柳沢克之さんはマッチを釣り針にセットして、、、、。
「そんなんで釣れるかよ。 馬鹿。」 みんなに思い切り突っ込まれてますねえ。 どっかの芸人みたい。
 さてさて、それでもみんな釣り糸を垂らして当たるのを待ってます。 呼吸も静かにそっとね。
釣り堀自体が町外れの静かーーーーーな所に在ります。 車の音も聞こえませんねえ。
 でもさあ、生きのいい魚が泳いでるから鳥に狙われるんだってさ。 そうかそうか。
その頃、ぼくらは彩葉のお母さんが用意してくれた昼ご飯を食べながら話し込んでます。 この辺りも静かなんだよね。
 「健太君さあ、新しい子が入ったんでしょう?」 「何で知ってるの?」
「つかさちゃんが教えてくれたんだ。」 「つかさがねえ。」
「どんな人なの?」 「メガネ女子だよ。」
「そっか。 何か可愛いみたいだね。」 「実はさ、ここに来る途中で会ったんだ。」
「へえ、その人もこの辺に友達が居るのかな?」 「そうなんだって。」
ぼくは歩いてくる折原さんの顔を思い出した。 今日は眼鏡を掛けていなかったな。

 窓から明るい日差しが差し込んでくる。 まあ彩葉が居るから紫外線は入らないように極力注意してるらしい。
そうそう、プールで泳ぐ時も彩葉は長袖にズボンを履いてパチャパチャしてたっけ。 馬宮達は陰でクスクス笑ってたよなあ。
 それを勉が見付けるとプールサイドもお構いなしに追い掛け回したっけ。 二宮先生も何とも言えない顔で勉たちを見てたな。
かと思えば体育が終わった後も彩葉を侮辱しまくるんだ。 「泳げないんだったら無理にプールに来なくてもいいんだよ。」なんて言ってさ。
 「あんた、最低よね。 よくそんなことが言えるわね。」 「うわ、彩葉親衛隊だ。」
「誰が親衛隊だって? 馬宮君?」 「何でもねえよ。 何でもねえったら、、、。」
 「勉、懲らしめてやって。」 「その必要は無いよ。 次は理科だろう?」
「何か有ったっけ?」 「今日は馬宮が当番の日だよなあ?」
「何か、、、? あーーーーーー!」 勉がクスクスと笑い出したのを見るや否や、馬宮は真っ蒼な顔で理科室へ飛んで行った。
 「当番も忘れるなんてどうかしてるよ。」 「まったくだ。 あいつは虐めるのは得意なくせに約束は忘れるんだからなあ。」
ほんとに毎日毎日、馬宮達に掻き回されっぱなしのクラスだったなあ。

 昼食を食べ終わると彩葉が教科書を開いた。 「もう勉強してるの?」
「そうなんだ。 早めに終わらせないと不安でさあ、、、。」 「焦ってもいいこと無いよ。 ぼくらだって授業は来週からなんだから。」
「そうは思うんだけど、、、。」 彩葉はどっか心配性なんです。
 文化祭が近付くと「あれはどうなの? これはどうなの?」ってぼくやつかさに聞いてくる。
「彩葉は心配性だなあ。 みんなうまくやってるから大丈夫だよ。」 つかさだって笑いながらそう言って彩葉を安心させてきたんだ。
 5年生の3月と言えば『6年生を送りましょう。』の会をやる。 司会は彩葉だった。
もちろん、みんなは緊張しまくり。 挨拶を間違えてみたり緊張してうまく読めなかったり、、、。
 その中で彩葉はきちんとやってみせたんだ。 終わってからつかさが飛んで行った。
「彩葉、良かったよ。 よくやったね。」 「ありがとう。 つかさちゃん。」
 そんな彩葉を見て囃し立てようとした馬宮だったけど、、、。 「あんたねえ、彩葉を見習いなさい。 ふざけてないでちゃんとやってよね。」
つかさに釘を刺されてアタフタするだけだった。

 「ねえねえ、国語さあ健太君は何が好き?」 「何がって言われても、、、。」
「童話とか漢詩とか小説とか有るけどさあ、、、。」 そう聞かれてぼくは折原さんに本を借りていることを思い出した。
(まだ読んでなかったなあ。) そうそう、あの日に借りた金子みすゞの童謡集だ。
 「金子みすゞもいいんじゃないかな?」 「何か知ってる?」
「うーーーーーん、、、、、、、。」 彩葉にそう聞かれるとは思ってなかったんだ。
 「いいのが有ったら教えてね。」 彩葉にはそう言われたけど、実は、、、、、、なんです。
机の上には小さなオルゴールが置いてあります。 どっかで見たことが有るなあ。
 「これさあ小学生の時の修学旅行で買ったんだよね。」 「そうだったの?」
「あの時は名古屋だったじゃない。」 「そっか。 そうだったなあ。」
 彩葉は懐かしそうにオルゴールを回した。 回る人形を見ながらぼくもあの日のことを思い出した。
「果物を貰ったから二人で食べてね。」 そこへお母さんがリンゴを持ってきた。
 「美味しそうだなあ。」 リンゴを食べながらぼくと彩葉は話し続ける。 やっぱり楽しいな。
誰にも邪魔されず彩葉と二人きりで居られるこの時間を大切にしたい。 ぼくはそう思った。
 4時近くになってぼくは彩葉の部屋を出たんだ。 「また来てね。」
「いつでも遊びに来るよ。」 「今度はつかさちゃんたちともゆっくり話したいな。」
「分かった。 言っとくよ。」 そう言って裏の玄関から出る。
 それから表に回って雑貨屋で買い物を、、、。 シャーペンとかノートとか揃えておかないといけないから。
小学生の頃から何かとお世話になってる店だけど変わって無いなあ。 店を出て歩き始めると、、、。
 「灰原君も帰るところなの?」って折原さんが、、、。 「そうなんだ。 ゆっくりできたからいいかと思って。」
「私も今日は楽しかった。」 「月曜日には学校で会おうね。」
 ポニーテールが揺れている。 可愛いなあ。
 それからぼくは日課のようにコンビニへ、、、。 いつものように缶コーヒーを買って帰る。
 折原さんもこの辺りで友達と会ってたんだね。 いつか彩葉とも友達になってほしいなあ。
そんなことを考えながら家に帰ってくる。 父さんたちはまだまだ帰ってこないらしい。
 ぼくが部屋で寝転がっていると携帯が鳴った。 見るとつかさからだ。
「珍しいね。」 「あのさあ月曜日にさあノートを買ってきてほしいんだ。」
「ノート?」 「そうそう。 彩葉の店のノート。」
「ああ、あれね。 持ってくよ。」 「ありがと。 待ってるね。」
 つかさが何ゆえに彩葉の店のノートを欲しがったんだろう? まあいいか。
彩葉の父さんが雑貨屋をやっていることは小学生の時から知っていた。 つかさや勉も時々遊びに来てノートを買っていたんだ。
その後、しばらくは近所の店に行ってたんだって。 でもさ、中学を卒業して彩葉が居なくなっただろう。
だから急に思い出したのかもね。 [あのノート]っていうのは、、、。
表紙にきれいな花の写真が入っている大学ノートだ。 これ使いやすいんだよね。
ぼくも何冊か買ってきたからその中からつかさにあげるつもり。
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