二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
 それから1時間後のこと。
 自分がハイスペ男2人の話題の中心になっていることなど、知る由もない田原勇気は、自分の家からは少し離れたコンビニをリュックを背負ってハシゴしていた。

「よし、ようやく見つけた……!」

 お目当てのものを、そのコンビニで見つけた時は、すでに自宅から電車で1時間くらいの距離にいた。

「すみません!このくじ、まだありますか……!?」

 勇気は、普段は話すのが苦手でよくどもってしまうのだが、こういう時の滑舌は声優並みによかったりする。

「おお、兄ちゃん運がいいね。ちょうどあと一箱しかないんだけどほら、引いていくんだろ?」
「買います」
「え」
「全部、くじ、買います」
「お、おお?」

 このくじは、1枚600円と決して安くはない。
 それも一箱分全部は大体80枚前後と聞く。
 その、約5万円分……人によっては家賃と同じ金額を、たかがくじに捧げようとしている勇気を見て、コンビニの店員は首を傾げた。
 だが、勇気は目的の物を手に入れた喜びだけではなく、できたばかりの義妹にプレゼントできるという二重の喜びに浸っていて、そんな店員の無礼など全く気づきもしなかった。

 そんなこんなで、用意していた空っぽのリュックに丁寧に戦利品を詰めてから、コンビニを出てすぐのことだった。

「あ、拓人さんだ」

 まさか自分にできると思わなかった、超美形の友人の名前を見て、ほんの少しときめいた勇気は、贈られたメッセージを見て目を丸くした。

「ごめん。命の危機。背後に気をつけて。…………え?」

 一体何のことかわからない勇気はとりあえず

「後ろのリュックは死守します」

 と、拓人からすれば意味不明な、けれど勇気にとっては重要な返信をしっかり送った。
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