二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「くっ……苦しいです……」

 香澄が、涼の胸をどんどん叩いたことで、自分がどれだけ強く香澄を抱きしめていたかに涼は気づいた。

「ご、ごめん……!」

 普通の男や普通の漫画だったら、ここでパッと手を離すのだろう。
 だが、涼は器用に香澄が呼吸できるようにうまーく腕の力を抜くことで、どうにか香澄を離さずに済ませた。

「あの……ど、どどどどうしたんですか?」
「ん?」

 どうしたのか、と香澄に尋ねられ、涼は答えに詰まった。
 この状況を拓人が見聞きしたら

「あんた……!!今更?今更よ!?すでに男として情けなさすぎる
アホな姿晒してるわよ……!!?」

 このようにバッサリ切られそうだが、それでも涼は理由を言うのを少々躊躇った。

(あの男をこの部屋に入れて、アレコレするんじゃ……)

 と言う不安を払拭するために、部屋に確認に来たなんて。
 だが、この状況は間違いなく、その不安が的中してしまったこと。
 ラッコ毛布の下には、香澄と勇気の二人の世界が広がっているのではないかと、考えた涼は、なんとしてもひっぺがしたくなった。
 だが、香澄を怯えさせるのは決して、決して決して本意ではない。
 香澄の、フワッといい香りがする頭をなでなでなでなでしながら、涼が次の言葉を探していると……。

「あの、涼先生」
「……なあに?」

 最近は崩れかけてきているものの、それでもかつてはしっかり機能した表情管理能力を活かし、香澄を安心させるような微笑みを作った涼だったが、次の香澄の言葉で、その微笑みが崩れそうになった。

「勇気さんとお会いしませんでした?今日約束があって」
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