ゴミと宝物

「宝物ならちゃんとしまっておいて!私から言わせればあれはただのゴミだったの!!」
 
 私も負けじと大声を放った。

 多分、この声は外まで聞こえているだろう。

 私はこのくだらない喧嘩をさっさと終わらせ、持ち帰った仕事に取り組みたかったのだ。


 少しの沈黙の後、彼は悟ったような顔をした。諦めたような顔にもとれる。

 この空間の色が、赤から青の雰囲気へとガラリと変わった。

 彼は、低く静かに私の名前を呼んだ。

「もう君とはやってけない。君の中での俺は、なんの価値もないものになってしまったんだろ?……そんなふうに思われて一緒になんて無理だ」
 
 そう言った彼は、とても悲しい顔をしていた。

 思えば、最近の彼はよくそんな表情をしていたことに気付く。

 私は謝らなかった。ただ冷たく、

「くだらない」とだけ呟いた。
 
 そのまま彼は部屋を出ていった。
 すぐに戻ってくるだろうと高を括っていたが、その時の彼の言葉と行動は突発的なものではないのだと思わされた。

 それから私が彼の顔を見たのは、後日彼が荷物をまとめて去っていくその時だけだった。

 私たちの5年以上続いた交際と同棲生活は、あっけなく幕を閉じた。
 
 くだらない。
 本当に、くだらない。
 そんなくだらないことで、今まで過ごした時間が終わってしまうの。
 そんなくだらないことでこれからの二人の時間を終わらせられる簡単な関係だったの。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop