若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
それでも花の希望通りにファミレスに車は到着した。

「土日だから混んでたら、有無を言わさず予約制の鉄板焼きにするぞ。」
そっちの方が今からじゃ絶対予約出来そうにないのに、と花は思う。

でもきっと、予約出来るコネがあるんだろうなぁ。

ファミレスの予約表を見ると2組だけ、これなら柊生も待ってくれるだろうと花は期待を込めて見つめる。

柊生も見つめ返す。
お互い無言の圧力に耐える事20秒ほどで、柊生が先に折れて花の思惑通り待つ事になる。

はぁーと一つため息を吐き、俺の妻は何でこんなに可愛いいんだと頭を抱える。

見つめられたら何だって許してしまう。

仕方なく待合室の椅子に花を座らせ、柊生はボディーガードのように横に立つ。

「柊君も座れば?」
隣りの席に誘うのに、俺はいいとずっと立ったままで、花は不思議に思い首を傾げる。

「何で座らないの?」

「咄嗟の時に動けないだろ。」
と、さも当たり前のように言うから、
ファミレスで何が起きると言うんだろうと、花は考えを巡らせる。

「…どう言う事?」

「花に良からぬ輩が近づかないように牽制している。」
と、柊生はかがんでこっそり花に伝える。

「誰も…妊婦さんには興味無いでしょ?」
ふふふっと笑って花が言う。

花は何も分かって無い。
はたから見たらまだまだ妊婦には見えないし、可愛い容姿は人目につく。

さっきの予約表の前でのひと時だけで、
『あの子、可愛くない?』と、待合室からヒソヒソと聞こえて来た声を柊生は聴き逃さなかった。

そんな不貞な輩に向けて、勝手に見るなと自ら壁になり、視界を遮る為にもこの位置から離れられないのだ。
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