乙女と森野熊さん
「真奈美」
突然背後から覇気の無い男の声がして、私はばっと振り返る。すっかり気を張るのをやめていて、人が近づいていることすら気が付いていなかった。
そこには上下紺のジャージ姿で無精ひげを生やした細身の男が、道路の真ん中にぽつんと立っている。
「パパ・・・・・・」
横にいた真奈美が呆然とした顔で呟き私は目を見開く。
痩せた、いや、生気の無いような顔と目をしたこの人が真奈美のお父さんだなんて。
「学校の行事で泊まりだったんじゃ無いのか」
真奈美の顔がその言葉に強ばる。
「その娘のマンションに入るのを見た。嘘をついたのか」
「ご、ごめんなさい」
私と泊まることを隠していたんだ。やはりあの視線は真奈美のお父さんだったなんて。
自宅までつけられていたなんて、そこまで気づいていなかった。