乙女と森野熊さん
「お前か、私の娘をたぶらかしたのは」
急に苛立ちを含んだ声で睨まれて私はびくっとする。
「行き場が無いからと男にすり寄って。そんな汚らわしい小娘と私の娘を一緒になんて出来るか」
「パパ!」
吐き捨てるように言われたけれど、何のことだかわからない。
「パパ止めて!乙女は大切な友達なの!酷いこと言わないで!」
「そうか、そんなに洗脳されているのか、可哀想に」
顔に表情が無い。いつも無表情な熊さんとは違う、そこはかとない恐怖を真奈美のお父さんから感じる。
「さぁ真奈美、来なさい」
少し先に立っている真奈美のお父さんが手を出した。
真奈美を見れば何かに耐えるような顔をして、私の方を向いた。
「ごめんね」
「いや、そうじゃなくて」
あんなお父さんのところに行って大丈夫なの?そう言いたかった。
でも数歩先にいるあの人に聞かれて逆上でもされたら大変だ。それほど何かあの人には危うさを感じて、出来るのなら引き留めたいと必死に考える。