乙女と森野熊さん
「熊さん」
熊さんの表情は変わらない。
「ありがとうございます」
色々なありがとうを、私はその言葉に込めて深く頭を下げた。
目の前の熊さんが動いて、私の頭に大きな手が乗る。
手が乗ったままゆっくり上半身を元に戻して熊さんを見上げれば、表情は変わらないはずなのにとても優しい目に見える。
私は頭を撫でられたまま、笑った。
そして私の頭に乗っていた手が、私の前に差し出された。
握手なのか何なのか戸惑って見上げる。
「帰ろう、俺たちの家に」
私は泣きそうになるのを堪えて、その大きな手に手を伸ばしてぎゅっと握る。
温かくて大きな手が、優しく握り返してくれた。
私はお墓に向かって頭を下げ、そして熊さんを見上げて、
「うん、帰ろう」
そう答えた。
次にここに来るときは高校三年になっている。
『その時には目指す大学や真奈美の事や、熊さんの事を報告するね』
私は遠ざかるお墓に心の中で誓いながら、熊さんと手を繋ぎ、並んで歩き出した。
END


