乙女と森野熊さん
「佐藤さんはお母さんと一緒に暮らすことになり、段々と元気を取り戻して新しい学校に通い出したようだな」
突然の言葉に思わず立ち上がって熊さんのコートを掴んだ。
「それ、それ真奈美の事だよね?他には?他に何言ってたの?!」
私のすがるような目を熊さんが首を私の方に向け見下ろす。
「俺は何も言ってないよ」
「でもさっき!」
ハッとした。
熊さんは一切話せないと言った。家族にすらも。
でも今教えてくれた。
私がこっそり泣いていたのを気づいていたのかもしれない。
だからまるで独り言を言ったように伝えてくれたんだ。
きっとこれは、熊さんにとってはやってはいけないこと。
それを私が破らせてしまった。
嬉しさと同時に申し訳ない気持ちが押し寄せて、コートから手を離すと姿勢を正す。