BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「私、ここの部屋取ってあるのよ!あ、何でも好きなもの頼んでね!」
駅前通りにある高級ホテル。1階にあるお店に足を踏み入れると、ウェイターさんがお辞儀して席に案内される。
奢ってあげると言われ、1番高いの頼んでやろうと思ったけど、ゼロの数に驚いてメニュー表を咄嗟に閉じた。
どうしよう、私こんな高いお店、入ったことない──。
「あら、どうしたの?」
「……いえ、なんか悪いなーって。こういう場所、はじめてで…何頼んだらいいか」
「えー、はじめてなの?随分と初々しいのねぇ。嫌いなものあるかしら?」
「……特にありません」
上から目線の声のトーンに、カチンときた。
不貞腐れモードの私は、この人に完全に子供扱いされている。
「赤と白、どっちが好き?」
「え……………?あ、赤ですかね」
「好きな色じゃないのよ。ワインは飲めるか聞いてるのよ?」
「飲めます!飲んだことあるし、何でも飲めます!!」
彼女が右手を口元に当てて上品な笑い方をする。
服装もしなやかな仕草も、綺麗な顔立ちも。彼女の醸し出す雰囲気全部が大人の女性で、自分の子供っぽさが浮き彫りにされた気分になる。
「ここのスパークリングワイン、とても美味しくておすすめなの」
「飲めます!」
「このモッツァレラチーズのブルスケッタは、ここのボジョレー・ヌーボーがとても合うのよ」
「飲めます!」
「ストロベリーリキュール飲んだことある?フルーティーで素敵なテイストなのよ」
「大丈夫です、飲めます!!」
次々と運ばれてくる料理に、勧められるお酒。少し意地になってたかもしれない。言われるままに口に運んでいった。
頭がぐるぐるして、顔がポーっと熱を持っていくのが自分でも分かる。目の前の彼女が何を言っているか理解できなくて、その彼女さえ二重に見えてきた。