BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「は、離して下さい!こ、こここ会社ですよ?」
「そうだね。もう取引先に行かないと」
「そうですよ!早く向かってください!」
彼の腕の中にすっぽりと入って、胸を押し出そうとしても強く抱き締められて全然動かない。
しわの無いスーツ。清潔感のある身だしなみ。
柔軟剤だろうか。甘くて爽やかな香りが鼻をくすぐる。
なんだか、凄く、落ち着く。
抵抗していた手を止めて、主任の胸に身を任せた。
「名残惜しいな。せっかく腕の中に捕まえたのに」
「……はい。あの、お仕事終わるの待ってます」
「はは、素直な香江ちゃんも可愛いね。じゃぁ、またね」
主任が私の頭にポンと大きな手を乗せて、柔らかい声のトーンを落とす。
ちょっとだけ寂しさを覚えて、彼を見上げたところで──
「山崎主任!時間ヤバいっすよ!!」
後ろから鈴木さんの声が耳に入るから心臓が止まるかと思った。
鈴木さんが営業用のカートを押して近付いてくる。そのまま、エレベーターのボタンを押して、こちらに目を向けた。
「2人共イチャつき過ぎですよ。見てるこっちが恥ずかしいんですけど!」
「嘘!?み、……見てたの!?」
「普通に会社の廊下だろ、ココ」
「はは、見せつけてごめんね」