Ray -木漏レ日ノ道へ-
わざとらしく拗ねたように言った私に、彼もまたわざとらしく眉間に皺を寄せた。

「君の血は格別だから。飲まなきゃオレの寿命が縮まる」

「それは困ります」

ふざけて、目を合わせ笑って、幸せだなと思う。

まだひとつ、心に引っ掛かることはあるけれど──

予約していたホテルの部屋は、偶然にも以前と同じ階だった。
クリスマス料金でだいぶ値上がっていたが、せっかくだからと奮発した。

前回来た時は窓の外の景色を見る余裕もなかったけれど、今日は部屋の中をゆったりとした空気が流れている。

「見て、さっきの噴水広場。ここから見えるイルミネーションの中で一番綺麗」

窓際に立って街を見下ろす私の横に彼が並んだ。

「凄いな、初めてこんな景色見た」

「ヴァンパイアって空飛んだりはしないの?」

「そんな、ファンタジーじゃないんだから」

いやいや、レイくんの存在がファンタジーみたいだと口から出そうになって我慢した。

「朱里さん、次の休みいつ?」

「明後日だよ。二十六日」

「その日さ、ちょっと付き合って欲しい場所があるんだけど……」

「わかった、空けておくね」

私の返事を聞いた彼は、どこか安心したように小さく息を吐いた。

会話が途切れて、どちらからともなく近付いて指を絡めキスをする。

そこから強く抱き締めてくれた腕は温かく、彼がヴァンパイアであることを忘れそうになってしまう。

「朱里さん、どっちがいい?」

「何が?」

「吸血行為と──」

その言葉の先を察した私の顔は一瞬にして熱くなった。
言葉に詰まって動けない私の髪に、彼は指を絡めて遊び始める。

やがて、いつまで経っても返ってこない答えに痺れを切らしたのか、彼が私の耳元に唇を寄せ、言った。

「どっちもにする?」

頭がパニックとは今のような状態を言うのだろう。
何も考えられないどころか声すら上手く出せずにいる。

彼は私から少し離れて唇で弧を描くと、いきなり子供っぽく笑ってみせた。

「吸血と睡眠、どっちがいいか尋ねたつもりだったんだけど何を想像したの?」

「……!!」

私を揶揄う彼の目は更に楽しそうに細められ、大人の色気も含んでいた。

色々な顔を持つ彼には、この先きっと何度も振り回されることになるだろうと思った。

「今日は首じゃないとこから貰いたいんだけど、いい?」

「ちなみに、どこがいいの?」

「そうだな……二の腕とか太腿とか美味しそうだなって」
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