Ray -木漏レ日ノ道へ-

【君ト紡イダ物語】

ヴァンパイアのレイくんと契約の口付けを交わした。

その瞬間、眩しい光に包まれたり彼の容姿が変わったり──といった展開になることもなく、その夜はただ彼と共に眠った。

けれど、真夜中に目が覚めた私は気づいた。彼の「体温」に。

私の身動ぎで起きてしまった彼が絡めてくれた指先、手を伸ばして触れた頬、再び優しく重ねてくれた唇、そのすべてが温かかった。

彼は私と、この時代に生きることを決めてくれたのだ。

**

クリスマスイブの勤務を終えた私は、駅前通りへと急いでいた。

いつか咲子と語り合った居酒屋を通り過ぎて噴水広場へと辿り着けば、二十二時を過ぎているというのに大勢の人。

定食屋で働いていた金髪のお兄さんが、今日はサンタクロースの格好をして噴水前でギターを抱えている。

「朱里さん、お疲れ様」

肩を叩かれ振り返ると、待ち合わせ相手が嬉しそうな顔をして立っていた。

「お待たせ。レイくん」

「荷物持とうか?」

「ううん、何か持ってたほうが落ち着くから大丈夫。ありがとう」

「そう? じゃあ、こっちね」

そう言って差し出してきた彼の手を握った。
幸せそうに微笑んでくれた彼の横顔を見て胸が高鳴った。

「ねえ、サンタクロースの服が赤い理由って知ってる?」

唐突に問われ、私はちゃんと考えもせずに首を傾げる。

「サンタクロースのモデルになった聖職者の祭服が赤だったんだ。あれは返り血だなんて話もあるみたいだけど、子供が聞いたら泣いちゃいそう」

「レイくんて物知りだよね」

「何百年て生きてきたからね。あ、ほら、暗い顔しないの」

頬を軽く引っ張られて無理に笑顔を作ると、彼は満足したように繋いでいた手の指を絡めてきた。

「……オレが望んだことだから。むしろ巻き込んでごめん」

今度は私が彼の頬を引っ張る番だった。

こうして当たり前に人混みの中を歩けるようになったのは最近のこと。
私が仕事中に街へ出ていた彼は、今まで感じることのなかった人々の視線に違和感を抱いたという。

自分へと向けられる視線の多くは女性だったらしい。

早速その日の夜、二人でファストフード店を利用すると、レシートの客数が二名になっていた。

居酒屋に入れば店員さんに二名様ですかと尋ねられ、それは確信に変わった。
彼の姿が他の人にも見えているのだと。

「そういえば最近、人間の食事が美味しく感じるようになってきた」

「じゃあもう、私の血は要らないね?」
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