Ray -木漏レ日ノ道へ-
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「ひか、る……?」

母の入院する病院を最後に訪れたのは、レイくんと出会う一ヶ月前。

半年ぶりに会う母は、初対面の彼を見るなりその名前を口にした。
今の彼は子供姿ではないというのに。

「違うよ、お母さん。レイくんは私の恋人」

「お母さん、初めまして」

不思議そうな顔で私たちの声に耳を傾けていた母だったが、何を思ったのか突然レイくんの手を握った。

「ちょっと、お母さん」

大丈夫、と彼は私に言うと母の目線の高さまで腰を屈める。

「お母さん、ボクの手あったかいですか?」

母は返事の代わりに子供みたいに無邪気に笑って、繋いだ手をぶんぶんと振り始めた。

こんなにも機嫌の良さそうな母を見るのは数年ぶりだ。

お見舞いに来る日はだいたいいつも不機嫌そうに窓の外を眺めているか、沈んだ様子で横になっているかだった。

もしかしたら、彼の中に生きる光琉の存在を感じ取ったのかもしれない。

「またゆっくり遊びに来ますから。その時はたくさんお話しましょうね」

精神状態が不安定な母との面会時間は今はまだ短い。
けれど、この先もっと安定してくれば今よりも長く話せるようになるだろう。

四月の柔らかい陽の光が窓から差し込み、私たちを照らす。

──電車で地元の駅に到着すると、私に気づいた女性の駅員さんがこんにちはと声をかけてきた。

しばらく会っていなかったはずなのに、覚えていてくれたことに感動してしまう。

「あの、実は……」

挨拶だけで終わるかと思いきや、彼女は小さな白い封筒を差し出してきた。
不思議に思い隣にいたレイくんと視線を合わせると、彼女は慌てたように私の方へ向き直った。

「三ヶ月ほど前、あなた宛にお預かりした手紙です」

「私に、ですか?」

「ええ。いつも終電を利用されている五十代くらいの男性の方からです。渡せばわかるはずと仰っていたのですが……」

「ねえ、レイくん。燃やしていいと思う?」

「やめなさい」

戸惑った顔で私たちを見ている彼女に謝って、その封筒を受け取った。

「わざわざありがとうございます。もし、……もしその方とまた会いましたら、お礼を伝えていただけませんか」

「かしこまりました」

いつか私を見かけた時に渡そうと、きっと彼女はこの手紙を手帳に挟んで毎日持ち歩いてくれていたのだ。
彼女の優しさを思うと、読まずに捨てるなんてできそうもない。

それに、出て行ったとはいえ実の父からの手紙。大切そうに持っていた家族写真のことも思い出す。
時間が経った今なら、冷静に話せるだろうか。
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