Ray -木漏レ日ノ道へ-
「これからどうする?」

駅を出たところで尋ねると、少し悩んでから彼は美術館と呟いた。

「前に君と入った丘の下の美術館。あの時、ちょっと気になった部屋があってさ。いつかゆっくり見たいと思ってた」

「じゃあ、そこに行こう。その後で光琉のとこに寄って戻れば夕飯時だね」

今日は既に長距離を歩いた私を気遣って、彼がタクシーを拾ってくれる。
歩くと三十分以上かかる距離が、信号に捕まらなかったこともあり十分で到着した。

春の風に吹かれて音を奏でるように揺れる木々の道を抜ける。
アンティークな門を潜ると外とは打って変わって静の空間が広がっていた。

「奥の広間の手前にある部屋だった気がするんだけど」

私に歩幅を合わせながら辺りを見回す彼の目は、好奇心からか輝いて見える。
彼の好きな物を知れたような気がして私まで嬉しくなった。

「あった、この部屋。前に通った時、中が少しだけ見えたんだ」

その部屋に足を踏み入れると、いくつもの絵画が飾られていた。
順路を示す貼紙に目をやれば、ここは光を題材にした作品が展示されている場所だと知る。

隣で彼が息を呑むのがわかった。

「ルーチェ、イタリア語で光とか輝きって意味じゃなかったかな。……そっちの絵は、森の中?」

彼の指さした先に視線を移して、説明文を読む。

「タイトル、木漏れ日っていうんだって」

深い緑に覆われた小道に強い光が差し、神秘的な世界を作り上げていた。
夢中でそれを見つめる彼は今、どんなことを考えているのだろう。

彼を残して次の作品へと進むと、今度は私がその絵から目を離せなくなった。

一つ前と同じく木漏れ日がテーマのようだが、先ほどの絵は冷たく静かな森のイメージだったのに対し、この絵は温かみのある新緑。

柔らかな光が儚げな青年を照らしていた。

「朱里さんはそっちが気に入ったの?」

いつの間にか移動してきていた彼が私に寄り添い、その絵を目にする。

「光の描き方が凄いリアルだね。描かれたものなのに眩しく見えるのが不思議」

「私、この作品が好き。なんてタイトルだろう」

視線をゆっくりと下の文字に落として、思わず固まってしまった。

「……ちょっと驚いた」

私の横で同じく固まる彼の方を向く。
彼が気づいて目を合わせてくれると、温かな気持ちになって自然と笑みがこぼれた。

【Ray -木漏レ日ノ道へ-】

そして私たちは再び前を向き、その絵を、今日この幸せな時間を記憶に焼き付ける。
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