黄昏色の街で
(電話してみようかな。) そう思ってボタンを押す。
けれど、、、、。 「こちらは留守番電話サービスです。 ご用の方は、、、。」
メッセージを聞いた私は受話器を置いた。 真面目な女なんだな、、、。
そう思うとなぜか安心しているのである。 遊び女だったらどうしただろう?
だけども本当にそうしているのかどうかは分からない。 あくまでもおじさんの推測である。
(明日、聞いてみれば分かるよな。) そう思っていると電話が掛かってきた。
「小林さん 電話掛けたでしょう?」 「よく分かったね。」
「履歴に残ってたから何か有ったのかと思って、、、。」 「いやいや、誘ってみようかと思ってさ、、、。」
「え? エッチのお誘いですか?」 「何でだよ? 飲みに行こうかと思って。」
「飲みに、、、ですか?」 「無理にとは言わないけどさ。」
「もう飲んじゃったから寝るだけですよ。」 「そっか。 飲んじゃったか。 残念だなあ。」
「じゃあ、今度は私からお誘いしますね。 お父さん。」 「おいおい、お父さんは無いよ。」
「いいじゃないですか。 小林さんは私の大事なお父さんです。」 「分かった。 分かったよ。」
「じゃあ、明日も元気に会いましょうね。 おやすみなさーーーい。」 元気な女である。
何処となく女子大生のような、、、。 「お父さんか、、、。」
私は何となく照れくさい気がした。
翌日も私たちはいつものように会社にやってきた。 「今日もよろしくお願いします。」
「何だい、畏まって。」 「だって小林さんは私のお父さんだから。」
「緊張するなあ。」 「いつも通りでいいんですよ。 小林さん。」
書類を見ながらそう言うのである。 (いつも通り、、、か。) 穏やかな日差しが降り注ぐ小さな部屋で私たちは並んで仕事をしている。
時々は背伸びをし、時々はお茶を飲み、そして時々は顔を見合わせる。 二人だけの小さな部署。
そしてまた時々、他の部署から書類を持った人たちがやってくる。 そのたびに、、、。
「ここはいいなあ。 二人だけでのんびりやれるなんて、、、。」 「そうでもないよ。 書類を見たらさっさと確認して返さなきゃいけないんだから。」
「とは言うけどさあ、うるさいやつも居ないし静かでいいよねえ。」 「確かにうるさいやつは居ないな。」
私はチラッと佳代子を見やる。 佳代子は睨むような素振りをしてからプイっと横を向く。
整理を終わらせた私はまたまた佳代子の後ろに立ってみる。 「ツンツンは無しですからね。」
「分かってるよ。」 そう言いながら頭を撫でてみる。
「私はシャム猫じゃありません。」 「柴犬だよ。」
「えーーーーーー? 何で柴犬なんですか?」 「そうやって食い付いてくるから。」
「私って小林さんのペットなんですね?」 「ペッとか、、、。」
「自分で柴犬なんて言っといてペットかは無いですよ。 小林さん。」 「それもそうだな。」
他の部署の人間が見たら羨ましがるのも無理は無い。 まるで親子のような二人しか居ないのだから。
「佳代子ちゃんは飲みには行かないの?」 「休み前なら行きますよ。」
「じゃあさあ、今度の金曜日に仕事が終わったら飲みに行かない?」 「いいですねえ。 お父さんと飲むなんて、、、。」
「お父さんねえ。」 「嫌ですか?」
「まだまだ結婚してないからさあ、、、。」 「そうだったんだ。 ごめんなさい。」
「こないだ、来た時に分かったんじゃないのかなあ?」 「あ、そうか。」
二人で片付けながらそんな話をしてます。 夕方はやっぱりどこか寂しい。
社を出ると枯れ葉がチラチラと舞う中を電停へ歩いていく。 夕日も長くなってきた。
いつものように電停で電車が来るのを待っている。 佳代子は私に寄り添っている。
その前を営業や経理の人たちが車で通り過ぎていく。 「寒くなったね。」
「そうですねえ。 先月まではそうまでなかったのに、、、。」 「やっぱり秋だねえ。」
「秋 好きなんでしょう?」 「いやいや、そんなことは、、、。」
「隠しても分かりますよ。 小林さん。」 「分かってたの?」
「最初の飲み会の時に「俺は春が好きだあ。」なんて言ってたでしょう? (何 嘘吐いてるんだ?)って思いながら聞いてました。」 「そっか、ばれちゃったか。」
佳代子は電停に落ちている枯れ葉を蹴飛ばした。 ハラハラと数枚の葉が舞って行った。
「間もなく電車が参ります。 どうぞ、ご利用ください。」
センチメンタルな接近アナウンスを聞きながら私たちは肩を寄せ合っている。 その前を社長の杉浦浩一郎を乗せた車が通り過ぎて行った。
電車が到着しドアを開く。 なぜか無言で乗り込む私たち。
今日は客が多いらしく混雑している。 佳代子は何とか私の隣に滑り込んだ。
だが混雑は予想以上で佳代子はなかなか降りれないでいる。 それでそのまま私の家にまで付いてきてしまった。
「今日も付いてきちゃった。」 「いいんじゃないの? こういうのも。」
「そうですねえ。 たっぷりとお父さんに甘えようかなあ。」 「それはいいけど、、、。」
「不満ですか?」 「いやいやスーツだから大丈夫かと思って、、、。」
「こないだだって私はスーツでしたよ。」 「そうだった。」
私は暗くなってきた居間に蛍光灯を点けた。 佳代子は早速冷蔵庫を漁っている。
「何か作れないかなあ?」 「おいおい、今から奥さんかい?」
「そうですよ。 私は小林さんの奥さんです。」 「まいった。」
「うーーん、これじゃあ足らないなあ。 買い物に行ってこなきゃ、、、。」 そう言うと佳代子はバッグを持って出掛けて行った。
私は後に残されてまるで廊下に立たされる小学生みたいな顔で佳代子を見送っている。 (一緒に暮らすとああなるのかな?)
あまりにも静かすぎる居間で私はぼんやりとしている。 不意に電話が鳴った。
「ねえねえ、秋刀魚の美味しそうな切り身がたくさん出てたんだけど食べますか?」 「いいねえ。 酒を飲むには一番だよ。」
「お酒ね、、、。 分かりました。 何枚か買いますね。」 買い物中の佳代子である。
どう見てもすっかり奥さんじゃない。 結婚するとああなるんだろうなあ。
私はテレビを見ながら佳代子の帰りを待っている。 外はだいぶ薄暗くなってきた。
「玄関も点けておくか。」 蛍光灯のスイッチを入れる。
いつもならそんなことはしないんだけどなあ。 家の前を珍しそうな顔で高校生が歩いて行った。
(高校生まで不思議がってるよ。 まいった。) でもまあ私は心の何処かで仄かな幸せを感じていたんだろう。
やがて買い物袋を下げた佳代子が返ってきた。 「たくさん買ったねえ。」
「だってお父さんにいーーーっぱい食べてもらおうと思って。」 「ありがとう。」
荷物を受け取ると二人で台所へ、、、。 (そのうちに佳代子の部屋着を揃えないとダメだなあ。)
「何を考えてるんですか?」 「ギク、、、。」
「また良からぬことですか?」 「いやいや佳代子ちゃんの部屋着を、、、。」
「買ってくれるんですか? ありがとうございまーーす。。」 ニコッとする佳代子はやっぱり憎めない。
(俺はやっぱり好きなんだな。) フライパンで秋刀魚を焼きながら鼻歌を歌う佳代子を見詰めながらそう思ったのだ。
けれど、、、、。 「こちらは留守番電話サービスです。 ご用の方は、、、。」
メッセージを聞いた私は受話器を置いた。 真面目な女なんだな、、、。
そう思うとなぜか安心しているのである。 遊び女だったらどうしただろう?
だけども本当にそうしているのかどうかは分からない。 あくまでもおじさんの推測である。
(明日、聞いてみれば分かるよな。) そう思っていると電話が掛かってきた。
「小林さん 電話掛けたでしょう?」 「よく分かったね。」
「履歴に残ってたから何か有ったのかと思って、、、。」 「いやいや、誘ってみようかと思ってさ、、、。」
「え? エッチのお誘いですか?」 「何でだよ? 飲みに行こうかと思って。」
「飲みに、、、ですか?」 「無理にとは言わないけどさ。」
「もう飲んじゃったから寝るだけですよ。」 「そっか。 飲んじゃったか。 残念だなあ。」
「じゃあ、今度は私からお誘いしますね。 お父さん。」 「おいおい、お父さんは無いよ。」
「いいじゃないですか。 小林さんは私の大事なお父さんです。」 「分かった。 分かったよ。」
「じゃあ、明日も元気に会いましょうね。 おやすみなさーーーい。」 元気な女である。
何処となく女子大生のような、、、。 「お父さんか、、、。」
私は何となく照れくさい気がした。
翌日も私たちはいつものように会社にやってきた。 「今日もよろしくお願いします。」
「何だい、畏まって。」 「だって小林さんは私のお父さんだから。」
「緊張するなあ。」 「いつも通りでいいんですよ。 小林さん。」
書類を見ながらそう言うのである。 (いつも通り、、、か。) 穏やかな日差しが降り注ぐ小さな部屋で私たちは並んで仕事をしている。
時々は背伸びをし、時々はお茶を飲み、そして時々は顔を見合わせる。 二人だけの小さな部署。
そしてまた時々、他の部署から書類を持った人たちがやってくる。 そのたびに、、、。
「ここはいいなあ。 二人だけでのんびりやれるなんて、、、。」 「そうでもないよ。 書類を見たらさっさと確認して返さなきゃいけないんだから。」
「とは言うけどさあ、うるさいやつも居ないし静かでいいよねえ。」 「確かにうるさいやつは居ないな。」
私はチラッと佳代子を見やる。 佳代子は睨むような素振りをしてからプイっと横を向く。
整理を終わらせた私はまたまた佳代子の後ろに立ってみる。 「ツンツンは無しですからね。」
「分かってるよ。」 そう言いながら頭を撫でてみる。
「私はシャム猫じゃありません。」 「柴犬だよ。」
「えーーーーーー? 何で柴犬なんですか?」 「そうやって食い付いてくるから。」
「私って小林さんのペットなんですね?」 「ペッとか、、、。」
「自分で柴犬なんて言っといてペットかは無いですよ。 小林さん。」 「それもそうだな。」
他の部署の人間が見たら羨ましがるのも無理は無い。 まるで親子のような二人しか居ないのだから。
「佳代子ちゃんは飲みには行かないの?」 「休み前なら行きますよ。」
「じゃあさあ、今度の金曜日に仕事が終わったら飲みに行かない?」 「いいですねえ。 お父さんと飲むなんて、、、。」
「お父さんねえ。」 「嫌ですか?」
「まだまだ結婚してないからさあ、、、。」 「そうだったんだ。 ごめんなさい。」
「こないだ、来た時に分かったんじゃないのかなあ?」 「あ、そうか。」
二人で片付けながらそんな話をしてます。 夕方はやっぱりどこか寂しい。
社を出ると枯れ葉がチラチラと舞う中を電停へ歩いていく。 夕日も長くなってきた。
いつものように電停で電車が来るのを待っている。 佳代子は私に寄り添っている。
その前を営業や経理の人たちが車で通り過ぎていく。 「寒くなったね。」
「そうですねえ。 先月まではそうまでなかったのに、、、。」 「やっぱり秋だねえ。」
「秋 好きなんでしょう?」 「いやいや、そんなことは、、、。」
「隠しても分かりますよ。 小林さん。」 「分かってたの?」
「最初の飲み会の時に「俺は春が好きだあ。」なんて言ってたでしょう? (何 嘘吐いてるんだ?)って思いながら聞いてました。」 「そっか、ばれちゃったか。」
佳代子は電停に落ちている枯れ葉を蹴飛ばした。 ハラハラと数枚の葉が舞って行った。
「間もなく電車が参ります。 どうぞ、ご利用ください。」
センチメンタルな接近アナウンスを聞きながら私たちは肩を寄せ合っている。 その前を社長の杉浦浩一郎を乗せた車が通り過ぎて行った。
電車が到着しドアを開く。 なぜか無言で乗り込む私たち。
今日は客が多いらしく混雑している。 佳代子は何とか私の隣に滑り込んだ。
だが混雑は予想以上で佳代子はなかなか降りれないでいる。 それでそのまま私の家にまで付いてきてしまった。
「今日も付いてきちゃった。」 「いいんじゃないの? こういうのも。」
「そうですねえ。 たっぷりとお父さんに甘えようかなあ。」 「それはいいけど、、、。」
「不満ですか?」 「いやいやスーツだから大丈夫かと思って、、、。」
「こないだだって私はスーツでしたよ。」 「そうだった。」
私は暗くなってきた居間に蛍光灯を点けた。 佳代子は早速冷蔵庫を漁っている。
「何か作れないかなあ?」 「おいおい、今から奥さんかい?」
「そうですよ。 私は小林さんの奥さんです。」 「まいった。」
「うーーん、これじゃあ足らないなあ。 買い物に行ってこなきゃ、、、。」 そう言うと佳代子はバッグを持って出掛けて行った。
私は後に残されてまるで廊下に立たされる小学生みたいな顔で佳代子を見送っている。 (一緒に暮らすとああなるのかな?)
あまりにも静かすぎる居間で私はぼんやりとしている。 不意に電話が鳴った。
「ねえねえ、秋刀魚の美味しそうな切り身がたくさん出てたんだけど食べますか?」 「いいねえ。 酒を飲むには一番だよ。」
「お酒ね、、、。 分かりました。 何枚か買いますね。」 買い物中の佳代子である。
どう見てもすっかり奥さんじゃない。 結婚するとああなるんだろうなあ。
私はテレビを見ながら佳代子の帰りを待っている。 外はだいぶ薄暗くなってきた。
「玄関も点けておくか。」 蛍光灯のスイッチを入れる。
いつもならそんなことはしないんだけどなあ。 家の前を珍しそうな顔で高校生が歩いて行った。
(高校生まで不思議がってるよ。 まいった。) でもまあ私は心の何処かで仄かな幸せを感じていたんだろう。
やがて買い物袋を下げた佳代子が返ってきた。 「たくさん買ったねえ。」
「だってお父さんにいーーーっぱい食べてもらおうと思って。」 「ありがとう。」
荷物を受け取ると二人で台所へ、、、。 (そのうちに佳代子の部屋着を揃えないとダメだなあ。)
「何を考えてるんですか?」 「ギク、、、。」
「また良からぬことですか?」 「いやいや佳代子ちゃんの部屋着を、、、。」
「買ってくれるんですか? ありがとうございまーーす。。」 ニコッとする佳代子はやっぱり憎めない。
(俺はやっぱり好きなんだな。) フライパンで秋刀魚を焼きながら鼻歌を歌う佳代子を見詰めながらそう思ったのだ。