黄昏色の街で
秋刀魚が焼けてきて美味そうな匂いが漂ってきた。 「美味そうだねえ。」
「脂も乗ってるしいい秋刀魚ですよ。」 「佳代子ちゃんは食べないの?」
「私も食べます。 お父さんと飲みたいから。」
佳代子は何処から見ても幸せそうである。 好きとも嫌いとも知らないが、、、。
しかしそれは今のうちは聞かないことにしよう。 聞いて嫌いだったらショックが大き過ぎるからね。
秋刀魚を皿に載せてテーブルへ、、、。 それからまた佳代子はコンロに向かった。
「何を作るの?」 「お腹が空いた時に食べれるように炒飯でも、、、。」
「そっか。 ほんとに嫁さんみたいだな。」 「早く捕まえてくださいね。」
意地らしく笑う佳代子が可愛く見えて仕方ないのだ。 日本酒の口を開けるとコップを佳代子が用意した。
「本当はお猪口で飲みたいんですけど、、、。」 「そうだね。 今度買ってくるよ。」
コップになみなみと日本酒を注ぐ。 そして二人で向かい合う。
焼けた秋刀魚と何種類かの総菜を並べて今夜も慎ましい飲み会の始まり。 外も静かになったようで、、、。
佳代子は秋刀魚を食べながらポーッとしている。 古い時計の針の音が聞こえる。
(親父もこうして飲んでたんだろうなあ。) ふと、そんなことを思い出したりする。
野菜の煮物もいいもんだ。 一人だと適当に済ませるからここまでおかずが並ぶことも無い。
日本酒を飲みながら佳代子の横顔を覗いてみる。 何も言わないのに萌えてくる。
不思議なもんだね。 飲んでると黙っていても平気でいられるんだから。
仕事をしている時は時々気を抜いて話さないとやっていけないような気がするのに、、、。
9時を過ぎた。 「さてそろそろ寝ようか。」 「もう、、、ですか?」
佳代子はどっか不満そうな顔をする。 それで私はまたまたコップを持った。
チビチビと飲んでいると佳代子が私にもたれてきた。 「やっぱりお父さんのこと好きなんですよ 私。」
そんな佳代子を抱き寄せて髪を撫でてみる。 おとなしくなった佳代子の頬にキスをする。
(次は服を用意しないとな、、、。) スーツを見ながら私はまたそう思った。
酔ってしまった佳代子を布団に寝かせる。 皴になるとやばいからスーツを脱がせてみた。
そして何事も無かったように添い寝する。 なぜかあの日のようには心が動かない。
酔っているからなのか、それとも奪ってしまったからなのかは分からないがとにかく抱きたいという気にならないんだ。
不思議なもんだね。 奪う前はあれだけ葛藤したのに、、、。
翌朝も何気なく目を覚ました私たちは何事も無かったように顔を合わせて起きだした。 「昨日は何もしなかったんですねえ?」
「なんかさあ、幸せそうに寝てるから抱く気にもなれなくて、、、。」 「抱いても良かったのに。」
「とはいうけどさ、酔っ払ってたんだ。 眠気には勝てなかったよ。」 「そうなんだ。 小林さんって優しいんですねえ。」
「そうかなあ?」 「だって寝てる間だったら何でも出来るじゃないですか。」
「とはいうけどそこまでは、、、。」 「次はちゃんと抱いてくださいね。 お父さん。」
人懐っこい目で訴えてくる。 いやいや、、、。
とはいえ今日は木曜日。 バタバタと用意をして会社へ、、、。 二人で出掛けることになるなんて。
「営業の連中に見付かったらうるさいなあ、たぶん。」 「そうなんですか?」
「知ってるだろう? 何でも騒ぎにするあいつらだよ。」 「ああ、あの人たちか。」
そんなわけで私は裏の入り口から入ることにした。 どちらから入ってもあの部屋はすぐそばである。
「やあ、おはよう。」 部屋の前で私は初めて会ったような顔をする。
その顔に佳代子は笑いを堪えている。 「中に入ってから「我慢するのが大変でした。」なんて言ってくる。
「笑っても良かったのに、、、。」 「あそこで笑ったら変な風に見られるでしょう?」
「それもそうだね。 さあ今日も頑張ろうか。」 「そうですねえ。 書類もいっぱい来そうだし、、、。」
午前9時。 時報が鳴った瞬間にドアが開いた。 「お待たせ。 書類を持ってきたよ。」
入ってきたのは営業第二部の吉竹誠である。 「お待たせって、、、。」
「いいじゃん。 二人で仲良く待ってたんだろう?」 「そりゃまあそうだけど、、、、。」
「じゃあよろしくね。 お二人さん。」 ニヤニヤしながら出ていく吉竹に佳代子は思い切り舌を出した。
そんなわけで午前中の仕事は決まったようだ。 紙を見ながら佳代子は何だかブツブツ言っている。
1時間ほど集中してから不意に背伸びをする。 わざと私のほうに手を伸ばしてくる。
その腕を掴んで引っ張ってみる。 「襲われるーーーーー。」
「こらこら、それは無いだろう。」 「言ってみたかった。」
「何で?」 「小林さんだったらどう反応するかなって?」
「意地悪だなあ。」 そう言いながら脇を擽ってみる。
「ギャーーーー、殺されるーーーーー!」 その声を聴いたのかドアが開いた。
「どうしたの?」 入ってきたのは総務部の吉永小百合である。
「いやいや休憩時間だから遊んでたんだよ。」 「何だ。 びっくりさせないでよ。」
「そうだよ。 佳代子ちゃん。」 「んもう、小林さんったら、、、、。」
小百合が出ていった後、口を尖らせた佳代子は窓の傍に立った。 「いい天気だなあ。」
外を見詰めている佳代子の隣に立ってみる。 そしたら佳代子が椅子に戻ってきた。
(機嫌悪くしたかな?) そう思いながら顔を覗き込んでみる。
不意に私のほうを向いた佳代子は舌を出して「アッカンベエ。」と笑った。
どうしていいのか分からなくなった私は書類に目を落として仕事を始めた。
さてさて昼休み。 財布を持って出掛けると後ろから佳代子が追い掛けてきた。
「小林さーーーーーん、置いてかないでくださいよーーーーー。」 バタバタと走ってくる姿は何となくバタコさんに似ている。
「だって、機嫌悪いんだろうなって思ったから、、、。」 「んもう、意地悪。」
そう言うと佳代子は腕を組んできた。 「よしなって。 社長が見てるから。」
「いいんです。 誰にも邪魔されないようにアピールしちゃうんです。」 「まいった。」
それでまあ食堂まで腕を組んだまま歩いて行くんですけど、、、。 その横を桜井さんが急ぎ足で過ぎていきました。
「今日は何を食べようかなあ?」 「私でも食べるかい?」
「うーーーん、大き過ぎて食べきれません。」 「そっか。」
「あらあら、小林さんって淡白なんですねえ。」 「何で?」
「何で食べきれないの?とか他の人にあげちゃうよとか言ってほしいなあ。」 「私には無理、、、。」
「そうでしたねえ。 ちょっと古い人だから。」 それを聞いた私は思わず拳骨を飛ばした。
「いたーい。 殴られたあ。」 「またまた、、、。」
「おー、お二人さんは仲良しだねえ。 小林君 火遊びだけはするんじゃないぞ。」 ニヤニヤしながら総務部の高岡劉生が通り過ぎて行った。
「火遊びか、、、。 それでもいいかもなあ。」 「なんだい、佳代子ちゃんまで。」
「私って遊んだことが無いんですよ。 出不精って言うのかなあ、、、。」 「どうだろうなあ。 最近はそういう人も多いんじゃないの?」
「かもしれないなあ。 宅飲みが増えてるし宴会だってやらないし。」 「私たちが居なくなったら居酒屋もやっていけないと思うよ。」
「そうでしょうねえ。 居酒屋で飲んでる若い人って居ないから。」 話している間に食堂に着いた。
入ってみると桜井さんがカウンターの隅っこでラーメンを食べているのが見えた。 「私たちはこっちに座ろう。」
佳代子はメニュー表を開いた。 「お父さんは何にします?」
「よしてよ。 お父さんなんて、、、。」 「ああ、ごめんなさい。 小林さんは何にします?」
「そうだなあ。 塩ラーメンでいいよ。」 「じゃあ、私は肉野菜炒めを、、、。」
水を運んできた店員がクスッと笑った。 佳代子はその店員をジロリと睨み返す。
奥のほうではそれを見ていた親父さんが吹き出してしまった。 「やっちゃったなあ 佳代子ちゃん。」
「いいんです。 たまには睨んでやらないと、、、。」 そう言いながら水を飲む佳代子がいつもより可愛く見えてしまうから不思議。
いよいよ毒が回ってきたのかな?
「脂も乗ってるしいい秋刀魚ですよ。」 「佳代子ちゃんは食べないの?」
「私も食べます。 お父さんと飲みたいから。」
佳代子は何処から見ても幸せそうである。 好きとも嫌いとも知らないが、、、。
しかしそれは今のうちは聞かないことにしよう。 聞いて嫌いだったらショックが大き過ぎるからね。
秋刀魚を皿に載せてテーブルへ、、、。 それからまた佳代子はコンロに向かった。
「何を作るの?」 「お腹が空いた時に食べれるように炒飯でも、、、。」
「そっか。 ほんとに嫁さんみたいだな。」 「早く捕まえてくださいね。」
意地らしく笑う佳代子が可愛く見えて仕方ないのだ。 日本酒の口を開けるとコップを佳代子が用意した。
「本当はお猪口で飲みたいんですけど、、、。」 「そうだね。 今度買ってくるよ。」
コップになみなみと日本酒を注ぐ。 そして二人で向かい合う。
焼けた秋刀魚と何種類かの総菜を並べて今夜も慎ましい飲み会の始まり。 外も静かになったようで、、、。
佳代子は秋刀魚を食べながらポーッとしている。 古い時計の針の音が聞こえる。
(親父もこうして飲んでたんだろうなあ。) ふと、そんなことを思い出したりする。
野菜の煮物もいいもんだ。 一人だと適当に済ませるからここまでおかずが並ぶことも無い。
日本酒を飲みながら佳代子の横顔を覗いてみる。 何も言わないのに萌えてくる。
不思議なもんだね。 飲んでると黙っていても平気でいられるんだから。
仕事をしている時は時々気を抜いて話さないとやっていけないような気がするのに、、、。
9時を過ぎた。 「さてそろそろ寝ようか。」 「もう、、、ですか?」
佳代子はどっか不満そうな顔をする。 それで私はまたまたコップを持った。
チビチビと飲んでいると佳代子が私にもたれてきた。 「やっぱりお父さんのこと好きなんですよ 私。」
そんな佳代子を抱き寄せて髪を撫でてみる。 おとなしくなった佳代子の頬にキスをする。
(次は服を用意しないとな、、、。) スーツを見ながら私はまたそう思った。
酔ってしまった佳代子を布団に寝かせる。 皴になるとやばいからスーツを脱がせてみた。
そして何事も無かったように添い寝する。 なぜかあの日のようには心が動かない。
酔っているからなのか、それとも奪ってしまったからなのかは分からないがとにかく抱きたいという気にならないんだ。
不思議なもんだね。 奪う前はあれだけ葛藤したのに、、、。
翌朝も何気なく目を覚ました私たちは何事も無かったように顔を合わせて起きだした。 「昨日は何もしなかったんですねえ?」
「なんかさあ、幸せそうに寝てるから抱く気にもなれなくて、、、。」 「抱いても良かったのに。」
「とはいうけどさ、酔っ払ってたんだ。 眠気には勝てなかったよ。」 「そうなんだ。 小林さんって優しいんですねえ。」
「そうかなあ?」 「だって寝てる間だったら何でも出来るじゃないですか。」
「とはいうけどそこまでは、、、。」 「次はちゃんと抱いてくださいね。 お父さん。」
人懐っこい目で訴えてくる。 いやいや、、、。
とはいえ今日は木曜日。 バタバタと用意をして会社へ、、、。 二人で出掛けることになるなんて。
「営業の連中に見付かったらうるさいなあ、たぶん。」 「そうなんですか?」
「知ってるだろう? 何でも騒ぎにするあいつらだよ。」 「ああ、あの人たちか。」
そんなわけで私は裏の入り口から入ることにした。 どちらから入ってもあの部屋はすぐそばである。
「やあ、おはよう。」 部屋の前で私は初めて会ったような顔をする。
その顔に佳代子は笑いを堪えている。 「中に入ってから「我慢するのが大変でした。」なんて言ってくる。
「笑っても良かったのに、、、。」 「あそこで笑ったら変な風に見られるでしょう?」
「それもそうだね。 さあ今日も頑張ろうか。」 「そうですねえ。 書類もいっぱい来そうだし、、、。」
午前9時。 時報が鳴った瞬間にドアが開いた。 「お待たせ。 書類を持ってきたよ。」
入ってきたのは営業第二部の吉竹誠である。 「お待たせって、、、。」
「いいじゃん。 二人で仲良く待ってたんだろう?」 「そりゃまあそうだけど、、、、。」
「じゃあよろしくね。 お二人さん。」 ニヤニヤしながら出ていく吉竹に佳代子は思い切り舌を出した。
そんなわけで午前中の仕事は決まったようだ。 紙を見ながら佳代子は何だかブツブツ言っている。
1時間ほど集中してから不意に背伸びをする。 わざと私のほうに手を伸ばしてくる。
その腕を掴んで引っ張ってみる。 「襲われるーーーーー。」
「こらこら、それは無いだろう。」 「言ってみたかった。」
「何で?」 「小林さんだったらどう反応するかなって?」
「意地悪だなあ。」 そう言いながら脇を擽ってみる。
「ギャーーーー、殺されるーーーーー!」 その声を聴いたのかドアが開いた。
「どうしたの?」 入ってきたのは総務部の吉永小百合である。
「いやいや休憩時間だから遊んでたんだよ。」 「何だ。 びっくりさせないでよ。」
「そうだよ。 佳代子ちゃん。」 「んもう、小林さんったら、、、、。」
小百合が出ていった後、口を尖らせた佳代子は窓の傍に立った。 「いい天気だなあ。」
外を見詰めている佳代子の隣に立ってみる。 そしたら佳代子が椅子に戻ってきた。
(機嫌悪くしたかな?) そう思いながら顔を覗き込んでみる。
不意に私のほうを向いた佳代子は舌を出して「アッカンベエ。」と笑った。
どうしていいのか分からなくなった私は書類に目を落として仕事を始めた。
さてさて昼休み。 財布を持って出掛けると後ろから佳代子が追い掛けてきた。
「小林さーーーーーん、置いてかないでくださいよーーーーー。」 バタバタと走ってくる姿は何となくバタコさんに似ている。
「だって、機嫌悪いんだろうなって思ったから、、、。」 「んもう、意地悪。」
そう言うと佳代子は腕を組んできた。 「よしなって。 社長が見てるから。」
「いいんです。 誰にも邪魔されないようにアピールしちゃうんです。」 「まいった。」
それでまあ食堂まで腕を組んだまま歩いて行くんですけど、、、。 その横を桜井さんが急ぎ足で過ぎていきました。
「今日は何を食べようかなあ?」 「私でも食べるかい?」
「うーーーん、大き過ぎて食べきれません。」 「そっか。」
「あらあら、小林さんって淡白なんですねえ。」 「何で?」
「何で食べきれないの?とか他の人にあげちゃうよとか言ってほしいなあ。」 「私には無理、、、。」
「そうでしたねえ。 ちょっと古い人だから。」 それを聞いた私は思わず拳骨を飛ばした。
「いたーい。 殴られたあ。」 「またまた、、、。」
「おー、お二人さんは仲良しだねえ。 小林君 火遊びだけはするんじゃないぞ。」 ニヤニヤしながら総務部の高岡劉生が通り過ぎて行った。
「火遊びか、、、。 それでもいいかもなあ。」 「なんだい、佳代子ちゃんまで。」
「私って遊んだことが無いんですよ。 出不精って言うのかなあ、、、。」 「どうだろうなあ。 最近はそういう人も多いんじゃないの?」
「かもしれないなあ。 宅飲みが増えてるし宴会だってやらないし。」 「私たちが居なくなったら居酒屋もやっていけないと思うよ。」
「そうでしょうねえ。 居酒屋で飲んでる若い人って居ないから。」 話している間に食堂に着いた。
入ってみると桜井さんがカウンターの隅っこでラーメンを食べているのが見えた。 「私たちはこっちに座ろう。」
佳代子はメニュー表を開いた。 「お父さんは何にします?」
「よしてよ。 お父さんなんて、、、。」 「ああ、ごめんなさい。 小林さんは何にします?」
「そうだなあ。 塩ラーメンでいいよ。」 「じゃあ、私は肉野菜炒めを、、、。」
水を運んできた店員がクスッと笑った。 佳代子はその店員をジロリと睨み返す。
奥のほうではそれを見ていた親父さんが吹き出してしまった。 「やっちゃったなあ 佳代子ちゃん。」
「いいんです。 たまには睨んでやらないと、、、。」 そう言いながら水を飲む佳代子がいつもより可愛く見えてしまうから不思議。
いよいよ毒が回ってきたのかな?