最強の花嫁は最愛の花婿を守る為に牙を剥く
「ご苦労だったな、オメェら。下がっていいぞ。」
猛が声を掛けると、側近達はおずおずと頭を下げながら、障子の向こう側へと消えていった。
「オメェも座れや。腹減ってんだろ。」
「………。」
促されて、尊も嫌々ながら父親の隣に腰を下ろす。
正面にはさっきからずっとニヤニヤ笑いを浮かべている感じの悪いイケメン野郎。
一体、何の集まりなんだ?
何だって親父は俺をこんな場所に。
異様な空気の中、尊が訝しげに様子を窺っていると、父親が部屋にいる面々を見渡し妙に改まった口調で切り出した。
「…ゴホン。えー、本日は遠路はるばるお越し下さり、誠にありがとうございます。此度の御縁を祝して、ささやかではありますが宴の席をご用意いたしました。お楽しみ頂ければ幸いです。」
「…急にどうしたんだよ、親父。何か悪いもんでも食ったのか?」
その親父らしからぬ言動を目の当たりにして、これはますます只事ではないと、尊が警戒の度合いを深める。
すると、今までだんまりだった黒服の中年男性がようやく口を開いた。
が、尊にはこの男性の言葉がさっぱり理解できなかった。
というのも、男性の口から飛び出したのは、日本語ではなく中国語だったからだ。
より正確に言うなら、広東語。
男性は堅物そうな外見に反して意外とお喋り好きなのか、自分の言語が一切通じていないにも関わらず、長々と話を続けた。
ポカン顔の志藤親子を置き去りにして。
そして、満足気な表情で話し終えた時、4人の間に生まれたのはそこはかとなく気まずい沈黙だった。
『…おい、親父、何とか言えよ。相手は親父の反応を待ってるぞ。』と目顔で問う息子に対し『ううう、うるせぇ、今返事を考えてるところだ、馬鹿野郎。』と父親がしどろもどろのテレパシーを返す。
その時だった。
始終薄笑いを浮かべていたイケメンが少しばかり表情を引き締め、初めて口を開いた。