純愛メランコリー

第15話

*



 搬送された向坂くんの処置を、蒼くんと二人で待っていた。

 とても冷静ではいられなかったけれど、彼の口から聞いておかなければならないことがある。

「どうして、あんなことしたの……?」

 まさか、向坂くんを突き落とすなんて。

 蒼くんもまた豹変してしまったというのだろうか。

 残虐な本性を持ち合わせていたのは、彼の方だった……?

「……ごめん」

 私の絶望的な考えを打ち消すように、蒼くんはしおらしく謝った。

「菜乃ちゃんを守らなきゃ、ってそればっかり考えてた。仁くんがナイフを取り出したから、また菜乃ちゃんが殺されると思って……気付いたらあんなこと────」

 彼の動揺を滲ませた眼差しも声色も、嘘には思えなかった。

 いつも蒼くんが私を気にかけて優先してくれていたことも、守ってくれようとしていたことも、染みるほど分かっている。

「ごめん、俺……菜乃ちゃんがもう死ねないんだったら、ループを終わらせるには仁くんを殺すしかないって思って。最悪そうしようって決めてたんだ」

 確かに“昨日”の時点で、蒼くんはそんなことを言っていた。
 向坂くんを殺すしかない、って。

「そのために二人の後をつけてたことも謝る。勝手なことして本当ごめんね」

 それでも会話は聞いていなかったのだろう。

 あるいは聞いていたとしたら、また私が向坂くんに騙されていると勘違いしたのかもしれない。

 どちらにしても、責めるべきではない。

 彼に悪気なんてないし、何より私にそんな資格もない。

 私を思ってのことだったのだ。
 責められるはずがない。

 私は首を横に振った。

「私こそごめん。蒼くんの気も知らないで……」

 一瞬でも最悪の可能性を抱いたことをひどく恥じた。
 彼の信頼に応えられていなかった。

「ありがとう、助けようとしてくれて」

 申し訳なく思いながらも、心から告げる。

 これ以上の言葉が見つからない。

 蒼くんは何か言いたげに私に向き直ると、一歩踏み込んだ。

「あのさ────」
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