恋はひと匙の魔法から
 ちょうど決めかねていたところだったため、素直にそう申告すると、西岡が頷きながら透子の隣に立って棚を眺め始める。
 そして下の段の端にある細身のボトルを手に取った。

「これは?甘口でスッキリしてるから透子でも飲みやすいと思う」
「へぇ……詳しいんですね」
「昔ちょっとかじったから」

 大したことのないように言うが、きっとストイックな彼のことだ。一般的に「しっかり」と言えるくらいには勉強したのだろう。
 代わりに選んでくれた西岡に感謝を述べつつ透子はボトルを受け取ろうとしたが、西岡は渡す素振りを見せない。

「他に買うものある?」
「ないですけど……」
「オッケー」

 しかもそのままレジのある方向へ歩き出してしまう。
 その道すがら、西岡は別のボトル――恐らくコルクの形からしてシャンパンだろう――も手にして、レジにいる店員へ二本のボトルを差し出す。
 店員がバーコードを読み取っていくのを見て、透子は焦燥を覚える。

「あの、西岡さん……」
「そういえば、今日は何でワイン?イメージないけど」
「……今日はピザを作ったので、折角ならと思ったんです。あの……」
「ピザも作れるのか……」

 感心したように頷きながら、西岡は金額を告げる店員へクレジットカードを渡している。
 透子も慌てて財布を出そうとしたが、既に遅かった。
 決済はすぐに終わり、店員が笑顔で彼にレジ袋に入ったボトル二本を手渡している。
 せめて今からでも支払おうと財布からお札を取り出そうとしたが、「ここは邪魔になるから」と西岡はスタスタと長い脚を駆使してすぐさま店の外に出て行ってしまう。
 透子もまた、駆け足で彼の後を追いかけた。

「西岡さん!お金、払いますから」
「いや、いいよ」
「そんなわけにはいかないですって」

 仕事関連ならまだしも、プライベートのお酒代を上司に払ってもらうのは申し訳なさすぎる。

「いいよ。大した値段じゃないし。いつも弁当作ってくれてるから、そのお礼」

 そうやって前もクッキーを貰ったし、そもそも謝礼という名目で金銭も受け取っているというのに。
 過剰すぎる西岡の心遣いに気後れしてしまう。
 だが、こうして押し問答をしていても彼が透子から代金を受け取ることはないだろう。
 なので、今回も有り難く彼の好意を頂戴することにした。
 財布をバッグに戻してお礼を言うと、彼は満足そうに頷いた。

 
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