やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない

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 2度目の16歳、10月第2週目が始まった。 

 先月、シドニー王子の『お前の名前を言え事件』(と呼ばれていたらしい)があった帝国語の教室で、王子と私は同じ席を使用していたが、ただそれだけで。
 一月経っても、身分差には何の変化もないので、私への陰口も減っていた。


 休み時間や食堂で、遠くからシドニーを見掛けると。
 配達をしている彼とは、まったく別人のようにも見えて。
 偽者というよりは、物語でよくある別々に育てられていた双子じゃないか、と言うくらい、取り巻きを引き連れた院内の王子様は不遜な雰囲気を纏っている。
 

 まぁともかく、偽者にしろ、双子にしろ、今回の私には関係がない。
 そう思いたいのに、前回とは違った意味で、やはりシドニー・ハイパー(本名は何と言うのか) が、気になっていた。

 今週の土曜日に、正体が判明する。


 ◇◇◇


 待ち遠しかった退勤時間が近付く。
 それに気が付いた先輩が私に『受け取ってから帰ってね』と言う。
 今日は私が配送を受け取ってサインをする、ということだ。
 あれからもシドニーが配達しているのだろうか。


 自分の出自を調べられているとは知らないシドニーが、やはり厨房裏口に居た。
 今日はまだ厨房担当者は出てきていなかった。


「ご苦労様です」

 私が目も合わせずに挨拶すると、シドニーも無言で頭を下げた。
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