やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
「ババアだから、と安心してたら家の中に入るなり、突き飛ばされて。
 子供の身体では年寄り相手でも勝てなくて、そのまま殴られて床に押し付けられて鞭で打たれた」

「……」

「お仕置きだ、とか。
 もう家から出さない、とか。
 誰かの名前を呼びながら、鞭を振り上げてたから。
 あぁ頭がおかしいババアから逃げた奴の代わりに、やられてるんだな、と」


 見知らぬ老婆から受けた理不尽な虐待を、淡々と話す魔女をただ見つめるしかなかった。

 今までの色気を滲ませた物言いも、この時は鳴りを潜めていたので、もしかしたらこちらが彼女の本来の口調なのではないか、という気がした。
 先程までの魔女は、誇張された女らしさを演じているように見えていたからだ。


 魔女は続けて、折檻して疲れた老女が眠っている間に、適当に服を盗んで逃げ出した、と話した。


「ババアから逃げても、色んな変な奴等から声をかけられたり、ちょっかいを出されたりした。
 また危ない奴に捕まりたくなくて、わざと顔を泥水で汚して、金色の瞳を隠すために髪をボサボサにして臭い草をすり込んだら、誰もが避けていくので、思惑通りだった。
 夜になってお腹がすいて、ある店の厨房の出入口に積み上げられた荷の中からパンを盗んで逃げて、ディナにぶつかった」

 そこからの流れは、私も知ってる。


「何の見返りも求めず、助けようとしてくれたのはディナだけ。
 貴女に御礼をしたいの。
 ディナ、もし過去の時間をやり直したいなら、1度だけになるけれど、叶えてあげる」
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