捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
ちょうどよいタイミングで、スタッフがやってきて彼が注文を済ませた。
普段は全部自分がやっているのに、それを社長にやらせていると思うと申し訳ない。
「すみません、お手を煩わせてしまって」
謝罪の言葉を口にした私に、社長は目を眇めた。
「今日、俺は船戸を口説こうとしているんだ。だからお前はなにも考えずにお姫様気分でいればいい」
「……はい」
返事をするのに数秒戸惑ったのは、お姫様気分がどういうものかわからなかったからだ。悲しいことに今までそんな気分を味わったことがない。
秘書として高級店に出入りすることがあっても、基本的には外で控えている場合が多い。こんな風に座って食事をする機会など、今までなかった。
根っからの庶民の私は、会社近くの居酒屋やチェーン店のレストランで十分幸せを感じる。
逆にこういう高級店だときちんとしなくてはいけないと思い、食事を純粋に楽しめそうにないのだ。今までずっとお姫様ではなく、町娘でやってきたのだから仕方ない。
そんな風に思っていたのだけれど……。
料理が運ばれてくると、その豪華さに純粋に気持ちが高ぶった。
「すごく、綺麗」
料理なのだから〝美味しそう〟と言うべきところだろうが、目の前には美しく盛りつけられた料理が並んでいる。
前菜はオマール海老を使ったパイに、タコのマリネ。サラダにはオレンジ色のジュレがあしらわれている。
美しいものを目にして、自然に頬が緩む。じっくりと見ていると視線を感じて顔を上げた。
「そういう風に素直に感動するのは、船戸のかわいいところだな。ほら、見るのもいいけど、食べようか」
「あ、はい」
〝かわいい〟だなんて言われ慣れていなくて、どう反応していいのかわからない。ただ恥ずかしくて頬に熱が集まる。
「その前に……と」
彼がミネラルウォーターの入ったグラスを手に取り、少し掲げた。私も急いでカクテルの入ったグラスを手にする。
「ふたりのこれからに」
彼の言葉にグラスを軽く上げて、ひと口飲む。カンパリとグレープフルーツのさわやかな味わいが口に広がった。
「さあ、召し上がれ」
彼に言われて食事を始める。驚くほど美味しくて思わず「美味しい」と呟いた。それを見た彼は満足そうに頷き、笑みを見せた。
「いつもうまそうに食うよな。ずっと見ていたくなる」
「そ、そんなこと言われると食べづらいです」
「悪い、気にするな」
楽しそうに笑う社長の顔に、胸がドキドキしてしまう。これまでだって談笑をして笑い合うことなんてたくさんあったのに、今までと違う空気に私の感情がゆさぶられている。
高鳴る胸をごまかすように、私は食事を口に運んだ。
前菜に続き、リゾット、魚料理、肉料理が運ばれてきて、どれもこれも今まで食べた料理の中で一番美味しかった。
どう振る舞っていいのかわからないと最初は思っていたものの、社長が仕事の時とは違い色々と話題を振ってくれ、アルコールも手伝ってか気が付けば随分楽しい時間を過ごしていた。