捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
普段も仕事以外の話をすることは少なくない。しかしこれまでとは違い一歩進んだ会話をしているような気もする。それは社長が私の話、一つひとつに耳を傾けてくれているからだろう。
デザートが運ばれてきた頃、社長が話を切り出した。
「ところで少し船戸の話を聞かせてほしいんだが、できる範囲で」
「はい」
「地元に帰らなくてはいけないのはどうしてだ?」
退職を申し出た理由を社長が聞きたいと思うのは無理もない。隠す必要もないので素直にこれまでのことを話す。
私の生まれ故郷は、瀬戸内海にある小さな島。本土までは一日十便程度の高速艇で三十五分ほどかかる。島には小学校が三校、中学と高校は一校ずつあった。
のどかな環境で、生活圏内はほぼ知人で構成されているようなそんな土地。
そこで小さな和菓子屋『ふなと』を営む両親、それに五歳上の兄と共に暮らしていた私は、小学校低学年の頃は体が弱く、入退院を繰り返していた。
小学校高学年になる頃には病気はすっかりよくなったけれど、これまで食べられなかった反動で、ほしいまま食べ続けた。
実家の和菓子が特に好きで、家族も自分たちが作ったものをうれしそうに食べる私を止めずに……結果、かなり大きな体になってしまったのだ。
もともと病気であまり友達がおらず、その上太ってしまった私に対して思春期の周囲の目は冷たかった。
男女問わず傷つくような言葉をかけられ、態度で示された。言い返すこともできなかった私は一念発起してダイエットし、中学を卒業する頃には普通体形になっていたけれど、いじめられやすい雰囲気を払拭することはできなかった。
狭いコミュニティの中での生活が災いして、両親も私がいじめられていることを知っていた。病弱だった上にいじめられた私に対して、ものすごく過保護になってしまったのだ。
どこに行くにもなにをするにも、両親の許可が必要だった。
高校生までそんな生活を過ごしているうちに、次第に人の目からも両親の過干渉からも自由になりたいと思うようになり、大学進学を機に東京でひとり暮らしをしようと考えた。
もちろん両親には大反対された。しかし私は努力を重ね勉強にはげみ、担任の先生からも両親を説得してもらった。
両親は卒業後は地元に戻ってくると思っていたようだが、それも日本でも有数の商社、箕島商事に就職することであきらめてもらった。
〝二十八歳までに、結婚できなければ地元に帰ってお見合いすること〟を条件に。
ここまでの私の話を黙って聞いていた社長は「なるほどな」とひと言だけ呟いた。
「すみません、長々とつまらない話をして」
どこにでもあるような話だ。本来ならここまで詳しく話すつもりはなかった。
しかし仕事を辞めることで迷惑をかける社長には、きちんと話しておきたかったのだ。それが私の示せる最大の誠意だと思った。
「これまで色々と努力をしてきたんですけど、結婚だけはどうにもなりませんでした」
あまり悲愴感がないように笑ってみせたが、逆効果だったようだ。社長はまったく表情を緩めずに硬い顔のままだ。
「なので、おとなしく田舎に帰ります」