捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
私が言い切ったと同時に、社長のスマートフォンが振動した。画面を確認した彼は少し迷った素振りを見せている。きっと大事な電話なのだろう。
「電話に出てください」
「悪いな」
彼は断って席を立った。
プライベートの時間なんてあってないようなものだろうな。
秘書になってから忙しくしている彼のそばにいた。改めて社長として大きなものを彼が背負っているのだと感じた。
目の前には空になったデザートプレートがある。
食事は終わったし、私の退職の理由も話した。きっと彼も話を聞いて地元に戻らなければいけない理由を理解してくれたはず。
私を引き留めるためだけに戯れで言った『結婚する』という言葉も撤回するだろう。
彼が席を外している間に、化粧直しをしておこうと席を立つ。
個室を出たところで男性にぶつかりそうになって、慌てて頭を下げた。
「ごめんなさいっ」
すると聞き慣れた声で「美涼?」と名前を呼ばれた。反射的に顔を上げ、目の前に立っている人物を見て目を見開いた。
「雅也……」
気まずそうにしている彼の隣には、知らない女性が立っていた。直観的にその人が新しい彼女なのだと理解する。
手入れの行き届いた美しいロングヘアに少したれ気味の大きな目。抜群のプロポーションでミントグリーンの華やかなワンピースがよく似合っている。
雅也の好みは実はこういう子だったのだと初めて知った。自分とはあまりにも違いすぎる。その事実だけで彼は無理して私と付き合っていたのだろうと推測した。
どうしてこんな時に、こんな場所で再会してしまうんだろう。向こうも困惑しているのが伝わってくる。
ぎこちない笑みを浮かべ、頭を下げて横を通り過ぎようとした。
しかしわずかに時間がかかったせいで、雅也の少し後ろにいた女性が一歩前に出た。
「あの、もしかして雅也の元カノさんですか?」
興味津々といった様子で不躾な言葉を口にする。
「……はい」
ここで嘘をついても仕方ないと思い、認めた。
「ふーん、箕島商事の秘書だなんて聞いていたから、もっと綺麗な人だと思っていたのに……あ、ごめんなさい。私すぐに思ったことが口に出ちゃうんです」
ふふふ、と笑いながら自分の口元を押さえて肩を竦めてみせる。反省しているようには見えないが、曖昧に頷くしかない。
「おい、やめろよ。行くぞ」
さすがに重い空気を感じ取ったらしい雅也が彼女の手を引いたが、女性はそれを振り払った。
「結婚、結婚って雅也にしがみついていて、私本当に迷惑したんですよ。だからひと言、言いたくて。魅力的な女性なら、女の方から結婚なんて迫らなくてもいいんですよ」
雅也が頭を抱えて、ため息をついている。