捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
そして上司である箕島社長に退職の意志を伝える日を迎えた。
社内規定には退職の申し出は、退職予定日のひと月前までという文言があったが、それでは引継ぎ期間が短くて困ると思い、三月末の退職希望を一月末の今日告げることにしたのだ。
とくに秘書業務は、マニュアルがあってないようなものだ。担当する上司の生活スタイルや好み、行動パターンを見て臨機応変に対応しなくてはならない。だからこそ最低でもひと月は引継ぎ期間を取れるように早めに申し出た。
もちろん、それでも圧倒的に時間が足りないのだけれど。
立つ鳥跡を濁さず。尊敬する社長に迷惑をかけるつもりはない。
終業時刻を過ぎ、仕事が落ち着いた頃。
申し訳ない気持ちを交えながら退職願を、彼の座る大きなプレジデントデスクの上にそっと置いたのだが――。
『俺と結婚しろ』ってどういうこと?
彼の信じられない言動に、私は驚く他なかった。
びりびりに破られた退職願をジッと見つめる。
結構苦労して書いたのに……なんて思うのは、現実から逃げたいせいかもしれない。
これまで社長秘書として、彼の視線や態度ひとつで意向をくみ、うまくやってきたつもりだった。彼もそれを認めてくれ、社歴の浅い私を信頼して様々なことをまかせてくれていた。
まさに〝阿吽の呼吸〟だなんて、先輩秘書たちから言われていい気になっていたのだろうか。
こんな大事な時に、社長の本心が見えずに困る。
言葉自体の意味がわからないわけじゃない。しかし彼がどうして結婚だなんて言いだしたのか理解に苦しんでいるのだ。
退職願の代わりに婚姻届? そんなものが、代わりになるはずなどない。