捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
 考えても考えても、答えにたどり着けそうにない。こうなったらもう一度聞くしかない。

「あの、結婚って私と社長が、でよろしいでしょうか?」

 自分でもマヌケな質問をしている自覚がある。

「もちろんだ。他に誰がいる?」

 腕を組んだ彼はさもあたり前のように言う。

 しかしそれを承知するわけには、もちろんいかない。

「あの、冗談ですよね?」

「そんな風に見えるか?」

 彼は立ち上がると、デスクの前に立っている私の手を引いて移動した。そしてソファに座るよう促し、隣に腰を下ろした。

 いつもとは違う距離の近さにドキッとする。しかしそれを悟られないくらいにはポーカーフェイスができる。秘書としての特技だ。

「俺の顔を見て、冗談だって言えるか?」

 ジッと見つめられ、彼が真剣にこの話をしているのがわかる。

「本気だ。今、船戸に辞められたら困る」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「だったら、辞めるな」

 そんな風に決断できる簡単な問題だったなら、どれだけいいだろうか。

「秘書課には私なんか足元にも及ばない、優秀な方々がたくさんいますから」

「確かに、うちの秘書課のメンバーは優秀だ。しかし他じゃダメだ。俺はお前がいい」

 秘書としての私を指しているのは理解しているけれど、こんな風に言われるとうれしく思ってしまう。今までやってきたことが報われる思いだ。

「それはありがたいお言葉ですが、私のために社長がそこまでする必要はありません」

「これはお前のためだけじゃない。もちろん優秀な秘書に辞められたくないが、それに加えて俺自身も周囲に結婚を急かされている。先日弟が家庭を持ってから余計にうるさくなった。箕島の家を継ぐなら、伴侶を持つのは必須条件なんだ」

「だから、私と結婚するって言うんですか?」

 社長の言い分は理解できるが、相手は私じゃなくてもいいだろう。

「お互いに明確なメリットがある。都合のいい相手がすぐに見つかるとは限らない。破談になったことが原因で地元に戻らなければいけないのなら、代わりに俺と結婚すれば全部解決するだろう」

「そんな簡単な問題じゃ――」

「俺じゃダメか?」

 彼の射るような真剣なまなざしに、ときめかない人などいるだろうか。ドキドキと高鳴る心臓の音がうるさいが、自分に「誤解しちゃダメだ」と言い聞かせる。

 あくまで彼は秘書としての私を手放したくないだけ。

 しかし落ち着こうとしても、なおも彼が私を篭絡しようとする。

「俺が船戸の元カレとやらよりも、劣るというのか?」

「そんなはずないじゃないですか!」

 目の前の社長を間近で見て、改めてその男ぶりに目を奪われる。
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