捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
流れるような黒髪はきちんとセットされていて、そこから覗く美しいアーチを描いた眉、瞳に宿る光には意志の強さが感じられた。しかしほんの少し下がった目尻が柔らかい印象をプラスして人を惹きつける。
高い鼻筋に少し薄めの唇。そこから奏でられる声すら美しく、彼と触れ合う人はみなその魅力を意識せざるを得ない。
常に一緒にいて見慣れているはずの私でさえ、近くで改めて見るとその美しさに目を奪われてしまう。
いけない、ちゃんと伝えないと。ハッと我に返り、どうにか言葉を発する。
「社長が劣るなんてありえません。私にとって社長は……社長は……」
ここでなんと言うべきなのかわからず、すんなり言葉が出てこない。
尊敬もしているし、憧れてもいる。もちろんカッコいいと思うこともよくある。しかし恋愛対象として考えられるかといえば恐れ多くて無理だ。
「お前の夫に値しないと言いたいのか?」
考えすぎたせいで彼に誤解を与えたようだ。
「ち、違います。その逆です。私にはもったいないです」
そう、〝もったいない〟や〝分不相応〟という言葉がしっくりくる。社長のような極上の男性の隣に立つなんて恐れ多い。
しかし彼はそんな私の気持ちを、まったく気にしないようだ。
「なら問題ないな、話はまとまった」
そう言って立ち上がり、デスクに向かう。
「いえ、大ありです。私の話を聞いていましたか?」
ここまで話が通じない人だっただろうか。いつもはこちらの意見もしっかりとくみ取ってくれるのに、今日はわざとそれをしていないように思える。
デスクに戻って仕事でも再開するのかと思っていたが、社長は資料を手に取り、片付けはじめた。
「あの、今日はもうお帰りですか?」
「あぁ。スケジュールはすべて消化したはずだが」
確かに今日の予定はすべて終わっている。しかし彼がこの時間に仕事を終えて帰宅するのはめったにないことだ。
「はい。確かに本日の日程はすべて終了しています」
「なら、問題ないな。船戸も帰る用意をして」
「はい。あの……」
どういうことだろうか。なぜ私まで?
今日はどうしたことか、社長の態度や言葉から意図することがまったく掴めない。
「聞こえなかったのか? 一緒に食事に行くから準備しろ」
「はい」
習慣とは恐ろしいもので、思わずいつもの調子で返事をしてしまった。
しかしここで私がなにかを言ったところで、おそらく一時間後には彼と食事をしているだろう。
それがわかったので、私はおとなしく帰宅準備に取りかかった。