捨てられ傷心秘書だったのに、敏腕社長の滾る恋情で愛され妻になりました【憧れシンデレラシリーズ】
「とぼけても無駄だぞ。三年もほぼ毎日顔を見てるんだ。そのくらいはわかる」
鋭い社長の指摘から逃げられるはずなどなく、白状することにした。
「あの……この席に他に何人の女性が座ったのかなって。すみません、下世話なことを」
自分で言っていて恥ずかしくなった。彼女でもなんでもない私が、プライベートな事情を気にするなんて。
顔を伏せて気まずさに耐える。
「お前が初めてだ」
「えっ、助手席に乗ったのは、私が初めてなんですか?」
聞き間違いかと思い、もう一度聞き直す。
「そうだ。車は俺にとってリラックスできる数少ない場所だから、特別な人しか乗せない」
「そんな、では私なんかが乗ってよかったんですか?」
思わず腰を浮かせた私の肩を社長がぐっと押して座らせた。
「いいから、そんなこと気にするな。今日の船戸は全然話を聞かないな」
「す、すみません」
確かに今日はいつもの私と違う。でもそれは仕方のないことだ。今置かれている状況そのものが、いつもとまったく異なっているのだから。
「船戸だから助手席に乗せた」
「でもさっき、特別な人しか乗せないって」
私の言葉に社長は苦笑した。
「そうだ。妻になる人なんだから特別だろう」
「あ……はい」
確かに〝妻〟という立場なら特別だが、私は断るつもりだ。それなのに彼の言葉にそわそわしてしまう。
いきなり私と結婚するって言いだしたのに、社長はどうしてすぐに私を特別だなんて言えるんだろう。
私が不器用なだけかもしれないと一瞬考えたけれど、そんなはずない。ついさっきまで上司としか見ていなかった相手の特別だと言われても、すぐに受け入れられるわけなどなかった。
だが、なぜか彼の言動ひとつひとつに、胸がドキドキと音を立てている。気が付かないうちに、どんどん彼のペースにはまっているような気がする。
そもそも社長が本気になったら、私などかなうはずもない。
だからといっておとなしく受け入れられるわけがない。
私が地元に帰りたくないという理由で、彼を利用するわけにはいかないから。一時的にそれで物事が丸く納まるとしても、その先はどうするつもりなのだろうか。
断ると決めているはずなのに、頭の中で〝結婚〟の二文字がぐるぐるする。
ふと隣を見ると、まっすぐ前を見て運転している社長がいる。こんな風に横顔をジッと見つめたのは、初めてかもしれない。
いつもと違う状況に、否が応でも彼を意識してしまう。
はぁ、もう。いったいこの気持ちはどうすればいいの。
車が減速してハッと我に返り、目の前の建物を見る。
「『ロージアンホテル』ですか?」
「あぁ。急だったからここのイタリアンしか用意できなかった」
「いいえ。十分です。むしろすぐに用意できたことに驚きです」