LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 直哉が連れて行ってくれたのは駅前のカジュアルなカフェレストランだった。店内はカップルや女性同士の客が多く、8時を過ぎた今でも賑わっていた。

「パスタが美味しいんだよ」

 言われて、藍はカルボナーラセットを頼んだ。直哉はボロネーゼセット。

「変な客が来たって。ごめんね」

 注文を済ませてくすぐ、直哉が言った。

「いえ、大丈夫です」

 正直なところ、客がどうこういうレベルではない。まず自分自身が店員として成長しなくてはならない。

「あのお客さん、ちょっと思い込み激しくてね。何かあったらすぐ連絡くれていいから」

 入社してすぐに連絡先を教えられている。色っぽい理由ではなく、仕事のために。

「ほかにも困ったことあったら相談してね。黙って我慢するのが大人だって思ってる人もいるけど、俺はそう思わないよ。周りに頼るべきときは頼る。そのほうが解決が早いよ、きっと。ホウレンソウ、ね?」

 見透(みす)かされたようで、藍はどきっとした。最近よく「大人なんだから」と自分に言い聞かせているところだった。

「ありがとうございます。――今日、お休みだったんですよね?」

「ま、気にしないで。おかげでこうして君と食事に行けたわけだし」

 そういう言い方されるとドキドキしてしまう。だが、この言い慣れた感じは誰にでも言っているのかもしれない。


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