育児に奮闘していたら、イケメン整形外科医とのとろあま生活が始まりました
「これって……」

「これからリハビリが始まる。退院しても通院リハビリが必要だし、家に帰ってなにか困ったことがあれば連絡して欲しい」

「えっ……でも、それなら通院のときに聞きますから。これはお返しします」


いくら退院してからの生活が大変だとはいえ、さすがにここまでしてもらうのは申し訳ない。そこまで気を遣ってもらうような間柄でもないし、リハビリも必要なくなればこの病院へも来なくなる。

そう思って、紙を山内先生に返そうとした。けれど、山内先生はその手をグッと掴んで阻止すると、首を横に振っている。


「ダメだ。これは返却不可。シングルマザーだと、これから困ったことがたくさん出てくる」


半ば強制的に紙を渡されたと同時に先ほど点滴を取りに行った看護師さんが帰って来てしまい、紙を返しそびれてしまった。
補液剤を繋いでいるうちに妃織が目を覚まし、周りをキョロキョロと見渡している。


「あれぇ……? まほうは?」

「妃織ちゃん、ちゃんと魔法がかかったよ。もう大丈夫」

「せんせい、ありがと」


弱々しく笑ってお礼を伝えた妃織の頭を、優しく撫でてくれる山内先生。なにがともあれ一大イベントが終了し、一安心だ。

「ママぁ。ひお、おなかすいたよ」と、目が覚めてまだ間もなくして空腹を訴えた妃織に、一瞬で病室が笑いに包まれた。
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