ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。
大学のサークル時代、いつも主役を張る看板役者だった同期の愛用していたカップが割れていたことがあった。
海外で買ったお気に入りのものだったらしく、そいつは怒った。誰が割ったのか問い質したが、誰も名乗り出なかった。
そこであかりがこう言った。
「昨日は強風だったので、窓を閉め忘れて落ちて割れてしまったのかもしれない。確認しなかった自分の責任です」と。
窓の閉め忘れなんか誰が悪いわけではないので、その場は穏便に収まった。
だが、本当は違った。カップを割ったのは、別の同期だった。
主役を奪われた腹いせに故意に割ったらしいが、トラブルにならないようにあかりが庇った。
窓はきちんと閉めていたんじゃないかと尋ねたら、あかりが偶然見たことを話してくれた。
「先輩方にも色々あるでしょうし、舞台前に空気が悪くなるのは嫌だと思ったので」
カップを割った奴はあかりの行動を見て急に罪悪感を感じたのか、その後別のカップを買って謝罪していた。
あかりにも庇ってくれたことに感謝していた。
その後、あかりをご飯に誘おうとしていたのは、全力で阻止させてもらったが。
とにかく、あの時と同じような確信めいたものを感じた。
波風立たぬように、自分の胸の奥にだけしまい込んだのだ。