孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 ずっと真顔だった深水さんの顔に優しい笑みが戻る。そんな彼を見てはたと疑問に思った。

「それにしても、深水さんはずいぶん彼のことに詳しいんですね」

 そういえば話している最中、穂高壱弥のことを呼び捨てにしていた気がする。深水さんの方が彼より二歳年上らしいから当然と言えば当然だけれど、会社での立場からすると違和感があった。

「ええ。アパートの隣の部屋に住んでいたんです」

 さらりと衝撃発言をされて、「えっ」と声が漏れた。

「アパートって、彼が極貧生活をしていたときの?」

「はい。うちも母子家庭だったんですが私の母親は男性の家に転がり込んでなかなか帰ってこなかったので、エミリさんにはとてもお世話になりました」

 言葉を失った。深水さんも穂高壱弥と同じく上流階級の家庭で育った雰囲気が漂っているけれど、実際の生い立ちは複雑そうだ。そんな事情をおくびにも出さず、深水さんは微笑む。

「私は二歳年上で当時八歳でしたが、壱弥とは毎日一緒に過ごしていました。それこそ兄弟のように」

 社内でおそらく踏み込んではいけない領域とされている社長秘書の素性を、深水さんは躊躇うことなく打ち明ける。

「そんなプライベートなこと、私に話してよかったんですか?」

 おそるおそる口にすると、彼は一瞬まばたきをしてから表情を崩した。

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