孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 片道四車線の大通り。土曜日の人通りが少ないオフィス街を通過しながら心臓が早くなっていく。運転席でゆったりとハンドルを操作する姿がやけに眩しく感じられる。

 赤信号で車が静かに停止する。胸の高鳴りを聞かれてしまいそうな気がして、慌てて口を開いた。

「壱弥さんは心にもないことを言えるのが凄いですよね」

 切れ長の目がまたチラリとこちらを向く。その視線から逃げるように、私は正面を見据えたまま続けた。

「さっきだって、リサさんたちに私たちの馴れ初めをすらすら話してたし」

 電車で会って、結婚話を持ち掛けられたことは事実だけれど、それ以外の話は寝耳に水だった。

「心を奪われたとか、求婚したとか、リサさんを納得させるためとはいえ、あんなセリフ、よくあの場で思いつきましたね」

 私はド直球で駆け引きができないから、素直に尊敬の念を覚える。数拍の間をおいて、彼がぽつりと言った。

「本当のことだからな」

 予想もしない返答に一瞬思考が停止する。

「……え、だって」

 家族想いで優しいとか、一緒にいて癒されるとか。

 先ほどいろどり亭で耳にした言葉をひとつずつ口にしていくと、彼はアクセルを踏み込みながら苦々しげに言う。

「おまえ、俺が誰にでも求婚する男だと思ってるだろ」

「いやあ、そんなことは……ちょっとだけ」
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