孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 たしか当初の予定では仕事は明日までで帰宅も日曜の夜遅くになるはずだった。だから私もそれに合わせて明日帰ろうと思っていたのだ。壱弥さんには実家に行くことを伝えていたけれど、彼自身が来ることは微塵も想定していない。

 でも、考えてみれば、壱弥さんはとんでもなく律儀でいろどり亭にさえきちんと挨拶に来てくれたのだから、ここに寄る可能性もゼロではなかった。

 迂闊だった。実家の面々にまだなにも説明していない。そんな状況で壱弥さんが現れたら、きっとわが家はパニックに陥る。

 慌てて返信しようとして、フリック入力の指を止めた。

 なんて返そう。『来なくていい』はなんだかひどいし、なにか良い言いまわしはないだろうか。

 文字通り頭を抱えていると、スマホの着信音が鳴り、急いで通話ボタンをタップした。

「もしもし」

「俺だ」と低く透き通った声が響く。久しぶりに耳にする声音に心臓が小さく音を立てる。

 電話の声って、耳元で囁かれているみたい。

「まだ実家だろ? 仕事が片付きそうだから、これからそっちに寄る。外出する予定はあるか?」

「ええと、家にはいますけど……お疲れでしょうし、無理に寄らなくても大丈夫ですよ」

「今回を逃すと、次いつ行けるかわからない。親御さんには早いうちに挨拶をしておきたい」

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