孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 離婚届に判を押す――それはつまり、壱弥さんに好きな人ができたってことだ。

 最初からわかっていた。利害が一致して始まった契約は、状況が変われば終わりを迎える。

 そういう契約だったのだから、きちんと従わなければならない。

 わかっていたのに、あまりに突然で、気持ちが追い付かない――

 こらえきれずに涙がぼろぼろ頬を伝っていく。

「こんな急に、終わりなんて――」

「ひかり」

 顎を持ち上げられ強引に上を向かされた。

 次の瞬間、唇を塞がれる。

 一瞬なにが起きているのかわからなかった。

 近づいた壱弥さんの匂いに、彼の柔らかな唇に、心臓が弾ける。

「ん――」

 頭を抱えられるようにキスをされ、思考が真っ白に染まった。合わさった感触に全身がしびれる。

 触れるだけの優しいキスなのに、体が溶けそうだ。唇に感じる熱と直に感じる壱弥さんのフェロモンに、脳がびりびりと刺激されて足の力が抜ける。

 やがて唇を離し、壱弥さんが苦しげにつぶやいた。

「これは……まずい」

 目をつぶり、呼吸を落ち着けるように深く息を吸っている。

 彼を見上げる私も、呼吸が乱れていた。ただ唇を重ねただけなのに、気持ちが高ぶって仕方ない。

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