孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 慌てて手を引くと、徹さんは「はは」と笑って暖炉の前に戻っていく。

「冗談だよ」

「……なにがしたいんですか?」

「べつに。なにもしませんよ。あなたはただの餌です」

「は……?」

「はは、到着したようです。効果てき面だなあ。よっぽどうまい餌なんだね、あなたは」

 ポケットから取り出したスマホの画面を見ると、彼は楽しそうに笑った。

 敬語が外れたかと思えば丁寧な口調に戻ったり、年齢に不釣り合いな少年みたいな笑い方をしたり、読めない言動が空恐ろしい。

 固まっていると玄関の方が騒がしくなり、やがて扉が開いて長身の男性が入ってきた。

「ひかり!」

「壱弥さん」

 リビングに現れた彼は私を見つけるとホッと安堵したように息をついた。

「無事か? なにかされてないか」

「なにもしてないよ。人聞きが悪いなぁ」

 暖炉前のソファに腰掛けたまま、徹さんはサイドテーブルの紅茶をソーサごと持ち上げる。優雅にお茶を飲む異母兄に壱弥さんは低い声で詰め寄った。

「なぜこんな真似を? 彼女は関係ないだろ」

「おまえが再三の呼びかけにも応じないから、奥さんの方にご来訪いただいたまでだ。親父から使いが行ってただろ」

「俺には話すことなどない」

 短く吐き捨てる壱弥さんに、徹さんは語気を強める。

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