孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
「はい、じゃあそこをどいて……て、え」

「なんでもいいから暴れるな。時間が惜しい」

「や、ちょ」

 首筋に顔を埋められてぎょっとした。腰に腕を回され、彼から発される爽やかな香りが漂う。近づいた距離に今さらながら思った。

 まずい。これは本格的にピンチ?

 大声を上げればうるさがって離れてくれるかもしれない。

「や――」

 全身に力を入れて叫び声を上げようした瞬間、いきなり押しつぶされた。

「んんんん」

 叫び声がうめき声に変わって私の口から洩れる。のしかかってきていた彼が脱力して思い切り私に体重をかけてきていた。いくらスマートな体型といっても、私には長身の男性を支えられるほどの力はない。

 んぬぬと歯を食いしばってどうにか男性の下から這い出たものの、腰にはがっちり腕を回されたままだ。

「な……なに?」

 寝息を立てている無防備な姿に、ようやく恐怖がこみ上げる。まるでこと切れるみたいに急激に眠りに落ちるって、いったいどういうこと?

 助けを求めるように扉の方を振り返ると、秘書の深水さんは真剣な表情でこちらを見ていた。目が合った瞬間、力強く頷く。

 私にしがみついているホダカ・ホールディングスの社長は、少年のような無垢な寝顔を見せていて、さっきまで冷酷な物言いをしていた人と同一人物とは思えない。

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