孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 どこかで見たことがあると思っていたら。ようやく合点がいってすっきりしたものの、深水さんの言葉が引っかかる。

「私のおかげで電車で眠れた?」

「はい、あの日は社用車が事故渋滞に巻き込まれまして、五分ほど経ったところで社長がしびれを切らし、先に取引先に向かわれるとおひとりで公共交通機関を利用されたのですが」

「……その説明はいらんだろ」

 五分ほどで、という部分を強調した秘書を睨みつけて、穂高社長は私に向き直る。

「俺は自宅の寝室以外では眠れない性質だ」

「……え? でもさっき」

 穂高社長越しに奥のベッドルームに目をやると、彼は不機嫌そうに眉根を寄せた。

「そうだ。どういうわけか、おまえの匂いは俺を問答無用で眠りに落とす」

「に、匂いですか?」

「さようです。しかも驚くほど質のいい睡眠を得られるようなのです!」

 やや興奮した様子で深水さんが身を乗り出した。スタイリッシュなメガネが照明を反射してきらりと光る。

「おそらく遊佐さんがお持ちのフェロモンが穂高社長に効果的に作用するのでしょう。遺伝子が異なる相手の匂いほど心地よく感じると言われていますが、遊佐さんは社長と真逆の遺伝子をお持ちなのではないでしょうか」

 やや過保護のきらいがある社長秘書に早口でまくしたてられ、ふと思う。

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