孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 ここに書かれてる内容が本当かどうか、本人に確認するまではわからない。そう思うのに、心のどこかでは書類の中の記載が真実なのだろうと感じていた。

 話のつじつまが合わなかったり、目線や態度が怪しかったり。思い返せば小さな綻びはいくつもあった。

 だからだろうか。純也のその時々の行動がつまびらかになって、かえってスッキリした気持ちになっている。

「動じないんだな」

 ふいに声がして顔を上げた。ダイニングの入り口にスーツ姿の穂高社長が立っている。彼は私から視線を外すと手に持っていたジャケットをハンガーラックに掛け、キッチンでコーヒーを淹れはじめた。

「もっと取り乱すかと思ったが、案外冷静なんだな」

 まるで私がこのレポート資料を見ることがわかってたみたいな口ぶりだ。いや、もしかするとそれを想定してわざわざテーブルの上に置いておいたのかもしれない。

 カップを手にした彼は私の正面に腰掛けるとつまらなそうに純也のレポート資料に目を落とした。

「バンド仲間とやらにちょっと金をチラつかせたら勝手にペラペラと話し始めたそうだ」

 コーヒーを一口飲んでから唇の端を微かに動かす。皮肉っぽく笑ったらしいと気付くのに、少々時間がかかった。

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