男心
卒業して、3月も終わりが近づき、いよいよ大学生活が始まるという気持で、
期待がいっぱいだ。
そんな気持ちを一気に高めてくれるものを母親が用意していた。

携帯電話だ。

今でこそ当たり前だが、自分たちの時代はポケベルの時代だった。
高校生の休み時間なんかは、学校に設置されている公衆電話の前に並んで、
ポケベルをうつ学生を目にしたものだ。

夢中になって説明書を読み、操作方法を覚えた。

とりあえず、実家やじいちゃんばあちゃんの連絡先は登録した。
他にも、友達の片岡の家の連絡先も登録した。

「新名さんの家の連絡先・・・。どうしよう。」
学校名簿をみれば、実家の連絡先が載っている。

迷ったが、「いつまでも女々しいからやめだ」と心に決めた。

しかし、夜。

「やっぱり登録したい。」
そう思い、一気に登録した。

登録したとたんに、なぜか強気になった。
まるで、彼女が自分の彼女になったかのようだった。

「どうせなら、一気に連絡してみるか。」

勢いで、発信のボタンを押した。

ジリリリリ、ジリリリリ。

「はい、新名ですが。」

「あ、自分、新名康子さんと同じクラスだった佐々田っていうものなんですが、
新名康子さんいますか?」

「あ、私だけど。」
「あ、新名さん。こんばんわ。遅くにごめんね。」

「何?」
「いや、ほら、理科って選択制だったでしょ。おれ、化学だったから
生物の教科書もってる人で、貸してくれる人を探してて・・・」
とっさに出た嘘だった。

「じゃあ、私じゃなくて片岡くんとかでいいんじゃない?家も近いでしょ?」
確かに、自分の家と新名さんの家は、笹沖と中庄といって、
自転車でも30分以上離れたとことにあった。
同じ笹沖の片岡に借りればすむ話であった。

「あ、そっか。片岡もそうだっけ。わかった。ありがとう。じゃあ。」
逃げるように、電話をきった。

その夜、夢の中で、何度も何度も彼女に告白をした。



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